229 学年末パーティー(2)

 ダンスの前のお辞儀をするレイノルドが目の前に居る。


 それは、夢のような瞬間だった。


 小さな頃を思い出す。


 礼儀作法の時間の後、レイノルドとエリックと3人で外に出て遊んでいた時のことだ。

『レイはしっかりダンスの練習をしておきなさいよ!』


『うん。そうする。そしたら、一緒に踊ろうね、アリアナ』

 そう言って、レイノルドは無邪気に笑った。


 ぽっと頬を染めるアリアナは、ハッキリと恋というものを自覚した。


 大きなシャンデリアの光で包まれる中。

 楽団の演奏が聴こえる。


 あの頃は本当にこんな日が来ると、信じて疑わなかったっけ。


 レイノルドが差し出す手に、自分の手を乗せると、タンッとレイノルドが踏み出すのを合図にステップが始まる。

 レイノルドとは何度も踊って来たはずなのに、今日はいつのダンスとも違う。


 何故だかレイノルドがとても楽しそうに笑うから、こちらも何だか楽しくなってしまう。


 こんなのダメなのに。

 みんながいるのだから。貴族らしく。公爵家の令嬢らしく。


 ああ。


 でも、今日くらいはいいかしら。


 この場所にはお兄様もいるし、ルナもいる。

 私一人が注目される場所ではないわ。


 それに、左門だったらきっとこう言う。

『楽しくやってる方が、愛されるだろ』って。

『つまんない嘘の笑顔なら辞めちまえ』って。


 本当、実直で馬鹿な左門。

 しょうがないから、私もあなたに救われてあげるわ。


 アリアナが、レイノルドをリードするように足を踏み出した。


 けれど、レイノルドもそのままリードされているような人間ではない。

 アリアナが高く踏み出し、二人が飛び出したかと思うと、レイノルドがリードしてアリアナがクルクルと回る。


 結局、シンクロした衣装もあいまって、異様に目立つ二人となってしまった。


 踊り終わり、後ろへ下がって目を合わせた後は、もうアリアナのくすくす笑いは止まらなかった。

「レっ……レイったら……っ!何よあれ!もう……!」


 レイノルドも、笑ったままの顔を見せた。

「楽しくなかった?」


「楽しすぎたのよっ!もうっ!」


 二人は、その手を離すのが惜しいとでも言うように、手を繋いだままだった。


 ……この手を離したら、ラストダンスまでは誰と踊ってもよくなってしまう。


 やっぱり……パートナーでいられるうちに、言わないといけないんだわ。

 ここでどんな関係にもならずに終わらせてしまったら、もうここに私は立てないかもしれない…………。


「ねえ……レイ?」


「ん?」

 緊張しすぎて声は小さくなったのに、レイノルドはこちらを向いてくれた。

 まったく!小さい頃からそんなだから、うっかり好きになっちゃうんじゃない!

 いつだって、ちょっとツンツンした顔をしているくせに。


「もし…………私にも話があるって言ったら……聞いてくれる?」


 ああ。

 きっと私の顔はおかしくて。

 きっと真っ赤になってしまっているから。

 何を言うかバレてしまったかもしれないわね。


 けど。

 もしダメだとしても。

 せめて最後まで言わせて。


 アリアナの顔を見たレイノルドは、

「もちろん」

 と返事をした。


 今、ホールでは中等科がダンスを踊っている。

 この挨拶のダンスが終わったら、抜け出すには少し早いけれど、二人で庭へ出よう。


 そしたら、レイに好きだって言おう。



 二人は、手を繋いだままだった。


 最後の学年のダンスが終わり、音楽が鳴り止む。


 そして二人は示し合わせた様に、言葉も無く、足早に歩いた。



◇◇◇◇◇



実直で馬鹿は若干自虐的な雰囲気で言っておりますね。

アリアナと左門、自分だけど自分じゃない。不思議な関係です。

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