228 学年末パーティー(1)

 学年末パーティーでは、学年ごとに、順番に入場する。

 中等科1年に続き、2年、3年といった具合だ。


 アリアナは、レイノルドの手の上にその手を乗せた。


 みんなが、ざわざわと廊下へ出て行く。


 さっきの……。


 レイノルドの横顔を見ると、レイノルドの視線がこちらへ向いた。


「レイ……」


 少し気まずそうな、アリアナの様子を窺うような視線だった。


「さっき、何て言おうとしたの?」


「ああ」

 レイノルドが、少し照れたように笑う。

「君に聞いて欲しい事があるから、また後で聞いてくれるかな」


「ええ。もちろんよ。パートナーだもの」

 アリアナは、少しテンパった結果、どこかおかしな返事をする。


 レイノルドの、手の熱を思い出す。


 や、やっぱりレイったら、雰囲気が……ちょっと…………?

 なんだかつい照れてしまう…………。


 後で……。

 パーティーの途中?

 ううん。パーティーが終わった後かしら。

 …………そっか、今日はパートナーだから、夜までパーティーが続いた後、レイが家まで送ってくれるのね。

 馬車の中かもしれないわね。


 そういう話なら、いいと、そう思えた。


 むしろ、私が言うのはどうだろう。


 ……レイが好きだって?


 想像するだけで頭の先から足の先まで、熱くなる。



 入場は、高等科1年へ。

 出来る限り周りに気を遣わせないよう、公爵家の二人は後ろの方へ並ぶ。


 すぐ後ろには、エリックとルナがニコニコと並んでいる。

 その後ろはもう2年生だ。

 遠くに、アリアナのそばに並べず気が気じゃないジェイリーの視線が刺さる。


 けど今は、パーティーに集中しなければ。


 アリアナとレイノルドは、視線を交わし合い、微笑みを交わし合う。


 アリアナの背筋が伸びた。

 パーティーは、公爵家の令嬢にとって、家の名を背負い注目される場だ。

 レイノルドにとってもそういうものだろう。


 外向きの顔。

 外向きの服。

 外向きの殻を被り歩く。


 大きな扉をくぐると、二人を光が照らした。


 大きなシャンデリア。


「アリアナ様ー」

「お綺麗ですわー」

 令嬢達の歓声が聞こえる。中には、アイリの声もあるようだ。



 すぐに、全学年がホールへと集まる。


 学園長が、挨拶をする。


 ……本当にマーリーの父親らしい顔をしているわね。


 学園長は、改めて見ると、マーリーによく似ている。

 髪色も眼鏡も。

 違うのは体型くらいだろうか。


 ぼんやりとそんな事を思いながら、パーティーは始まった。


 ホールの舞台になっているところで、楽団が音楽を奏で始める。

 跳ねるような明るいワルツが流れ出す。


 流石に全員が一斉に踊るわけにはいかないので、基本的に最初のパートナーとのダンスは学年毎だ。

 中央に集まっている高等科3年生のダンスから始まる。


 高等科3年は、これが卒業式と同等のものとなっている。

 実質、このパーティーの主役だ。

 3年生が踊り出すと同時に、歓声やすすり泣く声でホールがいっぱいになった。


 けど、流石に圧巻ね。


 それは、大きな沢山の花が緩やかに咲いていくようだった。

 目の前で、くるくるとドレス達が揺れる。


 3年生が優雅に引き下がり、2年生が出てくると、また歓声が上がる。

 パートナーのいる異性に歓声を飛ばすのはマナー違反なので、飛んでいく歓声は殆どが女性に向けての賞賛だ。


「ロドリアスだ」

 レイノルドの声も楽しそうだ。


「ほんと、お兄様だわ。あっちにキアラも居るわね」


 レイノルドのくすくす笑う声が聞こえた。

「ジェイリーが振り回されてるね」

「ええ、キアラったら、ジェイリーの周りをぐるぐる回る花みたいね」


 2年生が下がれば、次はアリアナ達の番だった。


 レイノルドの手に自分の手を乗せ、レイノルドと向かい合う。


「君とパートナーになれて光栄だよ」


「ふふっ」とアリアナが嬉しそうに笑う。


「私もよ」



◇◇◇◇◇



239話+あとがき1話を目標にしたいと思います。

最後までよろしくね!

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