226 パーティーが始まる(4)

 馬車の扉を開けると、ざわつきが耳に入る。

 令嬢達がドレスを褒め合い、どんなパートナーがいるか噂に花を咲かせているのだ。


 レイノルドが降りた瞬間、どよめきが起こる。


 ……まさか、レイに注目してるんじゃないでしょうね。


 ときめかれるのは困る。

 ここは、私の方が目立って、レイを霞ませないと……!


 アリアナは、最上の笑みを浮かべると、レイノルドの手を取り、馬車を降りる。


 令嬢達のため息が聞こえた。


「ア……アリアナ様よ……!」

「またお美しくなられたわね」

「あのお二人……!」

「お似合いですわねっ」

「ルーファウス様の視線……!絶対友情じゃありませんわっ」


 いいわ!いいわ!

 それに、注目されるのは気分がいいわね。


 背筋を伸ばし、レイノルドの腕に掴まった。


「じゃあ、行きましょうか」

 アリアナが見上げると、レイノルドもいつものレイノルドらしい表情を浮かべていた。

「ああ」



 会場となる大ホールや、その周りの休憩室となる部屋は、人でいっぱいだ。


「『ハローハーモニー』で取った休憩室、けっこう大きくて良いところなのよ。ホールからはちょっと遠いのだけど。」

「もうけっこうな大所帯だからね。リンドベルあたりも来るんだろ?」

「来るんじゃないかしら。別では部屋取ってないみたいだったし。わざわざクラスの休憩室で休むとも思えないわね」


 休憩室に入ると、まだ誰も居なかった。


 部屋はガラス張りで、ホールの後ろ側の庭園を眺めることができた。


 密室にならないために、ここの休憩室は大半がガラス張りになっている。特に、後ろ側の庭園ビューの部屋は人気なのだ。


「きれいね」


 ちょっとしたティーパーティーでも出来そうな程の広さの部屋に、小さな布張りのベンチが数個置いてある。


 テーブルも、ティーセットが置けるだけの小さなテーブルが所々に据えられている程度だ。


 広々とした部屋で、とりあえず庭園を背にしたベンチに二人で腰掛けてみた。


「………………」


 …………え。


 ちょ、ちょっとこのベンチ小さすぎないかしら。


 ベンチは、二人用。

 ドレスを着ていると、その分幅を取ってしまうので二人の距離はなかなかに近い。


 二人の間は10センチ程度。

 これじゃ、ちょっと動けば触れちゃうじゃない。


 こんな場所であまりドキドキしすぎるのも、困ったものだ。


 意識しないようにしないように。


「み、みんなまだ来ないわね」


 あああああ。声ちょっとおかしくなったあああああ。


「うん」


 えっと。


 かといって、立ち上がるのももったいない。

 せっかくレイの隣に居られるんだもの。


 けど、このパートナーの期間が終わってしまったら、また元通りなのかしら。

 ライトだって、ハーレムのことが落ち着き始めている今、いつまで来てくれるかわからない。


 このまま何の約束もしないまま……。


 目を離している間に、この場所に、誰か違う人がいたらどうしよう……。


 庭園の方へ目を向けようと、身体を傾けると、レイノルドと目があった。


 ぜ、絶対私、変な顔してる……。


 自分が、泣きそうなのか、ただドキドキしているのか分からなくなる。


 そこで、視線を合わせたレイノルドが、口を開いた。


「あのさ、アリアナ」



◇◇◇◇◇



お忘れかもしれませんが、マーリー・リンドベルです。学園長の息子で、眼鏡男子。

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