225 パーティーが始まる(3)

「みんな上手くやってるかしらって、考えてただけよ」


「みんな?」


「そう。アイリとドラーグとか。もし、商会の馬車で乗り付けていたらどうしようって」


「ああ。確かにそれは否定できないね」

 そう言って笑うレイノルドは、少し楽しそうだった。

「あの二人は思った以上に気が合うみたいだし、大丈夫」


 ……二人の扱いを見ると、やっぱり、今までアドバイスをしてくれていたライトだったんだって、思える。


「ドラーグ・タイリウなら、むしろ商会の馬車の方が合ってるかもしれないよ?」

 ちょっと生意気に微笑むレイノルドが、眩しく見えるなんてズルいわ。


「そうよね。手綱握りしめて、どどどどどど!って走って来るかもしれないわね」

 スンっとした顔で言い放つ。

「そうだよ。ドレスを着たリリーシャに手を伸ばして、『麗しの君よ、早くこっちへ!』って言うんでしょ?」


 その言葉に、思わずアリアナが笑う。

「何よそれ!そんな流行りの恋愛劇みたいなセリフ、何処で聞いたの」


「この間、ルナとキアラとエリックが寸劇してくれた」


 すると、3人の寸劇を思い浮かべ、また笑う。

「あの3人、何してるの!エリックまで!私も見たかったわ」


「うん。また今度見せてもらおう。キアラが、アリアナに会いたがってたよ」


「そうね。前回のティーパーティーに行けなかったもの。楽しみにしておくわ」

 アリアナが笑いながら言う。


 目の前にいるレイノルドは、確かにライトよりも硬い顔をしていた。

 笑う時も、どこか気を遣っている。


 まあ、公爵家を背負うものとしては、こんな窓の向こうから誰が見ているかわからない場所は硬くならざるを得ないか。


 けど、確かにライトだった。

 時々、ライトのような優しい視線が混じる。


 ライトの顔がハッキリした今ならわかる。


 確かにこの人はライトだ。


 それもちょっと硬くて。

 それもちょっと可愛いと思えた。


 ずっとこの時間が続けばいいって、考えてしまう。


 私は……、ライトとしてあれほど部屋に来てくれていたと知ってから、ちょっと欲張りになってしまったみたいだわ。


 窓の外は、アカデミーに近づくにつれ、街並みが長閑になって行く。

 アカデミーは王都の中でも、郊外に位置する。

 なだらかな幅広い道を、幾つもの馬車がカタカタと走って行く。

 青い空を臨む。


 高くなった太陽の光の中で、レイノルドの瞳は、宝石の様に輝いた。


 つい、考えてしまう。


 もし、私がもっと一緒に居たいと言ったら、この人はどんな顔をするかしら。


 もし、私が好きだと言ったのなら?


 この人は…………。


 どれほどじっと見てしまったのか。

 あまりにもアリアナがレイノルドをじっと眺めたものだから、レイノルドが、

「どうかした?」

 と尋ねる。


 アリアナは、

「いいえ。アカデミーが見えて来たから、いよいよだなって思っていただけよ」

 と、緩やかに笑った。



◇◇◇◇◇



お忘れかもしれませんが、アイリ・リリーシャ嬢です。

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