222 応接室で

 アリアナはその日、応接室へ呼び出された。


「ねえ、サナ」

「はい!」

 明るい声で返事が返ってくる。

「お客様は、レイノルド・ルーファウスなのよね?」

「はい!もちろんです!」


 おかしい。

 レイを応接室へ通すなんて。


 普段は直接私室へ来る。

 そうでなくても、専用の応接室へ通すはずだ。


 わざわざ本邸中心にある、お客様用の部屋を使うなんて。


 ……やっぱりおかしいと思いながらも、この屋敷で一番のお客様用の部屋へ案内される。


「アリアナです」

 金の縁取りのしてある大きな白い扉を叩くと、

「入りなさい」

 なぜか父親の声がした。


 こんな時こそ堂々としなくては。


 ツンとした顔を作り、扉をくぐると、そこには確かにレイノルドが居た。

 実に居心地悪く立っているのは、そこに、アリアナの父、母、兄、弟、妹が勢揃いしているからだろう。


 用事は、といえば、その中心でトルソーに飾られているドレスのことなのだろうが、それにしても……。


「これは一体、どういう状況なの……」


 そこへ、前に出たのは、レイノルドだった。


「アリアナ」


 名を呼ばれ、どきんとする。


「…………はい」


「プレゼントなんだ。これを、パーティーで着て欲しい」


 こ……、これは、ただ、プレゼントを贈りにきただけ、よね?


 ドレスを見ると、明るい紫に金糸で飾り付けをした、なかなかシンプルで大人っぽく、それでいてシルエット的には可愛らしいドレスだった。


 感動してしまいそうなシーン。

 ……何故か家族が全員でじっと見ているから、そうもいかないけれど。


 父は若干落ち込んでいるように見えるし、母はアリアナに申し訳なさそうにしている。

 何故か兄はこの上ない威圧感を放っていた。

 弟と妹は、満面の笑みだ。


「ええ……、もちろんパートナーですもの。着させていただくわ」


 沈黙。


 そんな沈黙を破ったのは、ルナだった。

「あら、プロポーズするわけじゃないのね」

 ふと気がついたような言葉。


 その言葉に、レイノルドはいつものように返してしまったらしい。

「こんなところでプロポーズするわけないよね!?」


 家族達を見ると、どうやらそれを期待していたようだった。


 ……まったく、パートナーになっただけだっていうのに、大袈裟なんだから。


 プロポーズなんてしてくるわけじゃない。


 ロドリアスの瞳が、かかっていくタイミングを計るかの如くキラリと光ったので、アレスが兄の腕を引っ張った。

「兄様、用事があるとか言ってなかったっけ?そろそろ行かないと」

 アレスはなんだかんだで、勉強を見てもらっているレイノルドに懐いているらしい。

 こういう時はレイノルドの味方なのだ。


「まったく、仕方ないわね。じゃあ、そろそろ行きましょう」

 と、母が言ったので、家族達は本当に仕方なさそうに部屋を出て行った。


 二人きりになる。


 どうやらサナまで部屋を出て行ってしまったらしい。


 レイノルドはドレスを渡す為に来てくれただけで、恋人でもないのに。

 そういう扱いをされると、どうにも居心地が悪くなってしまう。


「もう、うちの家族ったら仕方ないわね」

 雰囲気を明るくしようと、明るく努めた。


 そこでレイノルドが苦笑したのは予想外だった。


「ああ、僕がドレスの色の事で色々言ったから心配だったんだよ」


「ドレスの……色?」


 ここにあるドレスは、紫色だ。


「まず、ロドリアスに紺色はダメだって言われて……」


 ……確かに、ルーファウス家の色を纏えば、いよいよ婚約者扱いされてしまうだろう。


「かといって、赤にするわけにもいかなくてさ」


 赤も、それはそれでサウスフィールドの色なので、同じ事になるだろう。


「それで、結局、何度か話し合いの場を設けた結果、この色になったんだ」


「何度も?」


「そう。何度も」


 アリアナは呆れた顔をした。


「もう……みんな大袈裟なんだから。プロポーズの心配までするなんて」


 そうアリアナが言った瞬間、レイノルドがふいっと横を向いた。


 …………え?


 なんだか……気まずいのか、それとも…………、照れたのか。


 …………え???


 アリアナがまじまじと逸らされた顔を見る。


 プロポーズって言葉に反応したの……?


 そ、そそそ、そんな反応されたら…………、こっちまで照れてしまうじゃないの。


 ……もう、レイったら。



◇◇◇◇◇



一番のシスコンは兄ですね。

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