221 え、ちょっと待って(5)

 レイノルドの目の前には、アリアナが居る。


 いつもと同じように、ケーキとお茶を用意して、ライトとしての僕を受け入れてくれた……。


 レイノルドがこの間来た時から、アリアナの様子がおかしかった。


 なんとなく……落ち着かないような。

 ダンスもうまく踊れていないようだった。


 足を挫いたのか、何かの言い訳か、抱きついていなければならないほど足元が覚束なかった。


 抱きついてきたアリアナを思い出す。

 香るほど近づいた蜂蜜色の髪と。

 触れられる距離の首筋と……。


 いや、あれはそういうのじゃないから!


 ……もしかすると、正体がバレたのかと思ったけど……。


 正体がバレると、理論的には黒髪黒目のレイノルドに見えるはずだ。


 けど、実際に自力で正体を見破った人間はまだいない。

 正体を見破る事が可能なのかどうかもわからない中で、探りを入れるのも危険というものだ。


 正体がバレれば、騙していた事で怒らせ、部屋に入れてもらえなくなるんじゃないかと思うけれど、今日、部屋に入れてくれて、今まで通り会話しているのだから、やっぱりまたわからなくなった。


 ハーレム計画に巻き込まれ、来ないわけにはいかなかった。

 突然消えるわけにも。


 どこかで正体を言えればよかったのだけれど。

 それで複数人の男と関係を持って一緒に住んで……、そんなアリアナを遠くから見守るなんて冗談じゃなかった。


 結局ハーレム計画を頓挫させる事はできていない。


 けど、自分の保身に走りたいわけじゃない。


 ただアリアナが、笑ってくれればいい。

 幸せになってくれれば。


 そしてもし、幸せにするのが自分だったなら……。


 ハーレム作りに必死になり、計画を立てている時のアリアナは、悲しいけれど輝いている。


 正体がバレたなら、謝り倒すしかないだろうな。


 もし、許して貰えなくても。


 アリアナの笑顔を見る。


 笑っているアリアナと。

 温かな紅茶と。


 夢のような光景。


 これを手放せば、アリアナが別の男のものになってしまうかもしれない。

 それも……、本気で想う相手だというならともかく。

 ……あんな能力と顔しか見ていないような男が複数ってなんだよ…………。


 それでも今日、アリアナが笑っている事で、少なからず安心した。


 結局…………本当の自分で勝負するしかないんだ。


 レイノルドの姿で。


 好きだって伝えて。


 気持ちを信じてもらって。


 プロポーズでもして。


 幸いサウスフィールド公爵には僕の気持ちは伝えてある。

 結婚に関する問題はそれほど多くはない。


 ……アリアナの気持ち以外は。


 深いスミレ色の瞳で、ケーキの話で花のように笑うアリアナの顔に見惚れる。


 レイノルドは困ったように微笑んだ。


 もう、ため息しか出ないね。



◇◇◇◇◇



レイノルドくんはアリアナのスミレ色の瞳が好きなんだろうなぁと思います。

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