220 え、ちょっと待って(4)

 それから4日後。

 前回挙動不審だったので、もう来ないんじゃないかと不安になってきた頃、ライトは現れた。


 そしていつものように部屋に通した。


 いつものようにテーブルには、小さなチーズケーキを用意した。

 そしてlいつものように、さっぱりとしたハーブティーを用意した。


 いつもと同じような挨拶をして、目の前に座っているのは、やはり黒髪黒目のレイノルドだった。


 この部屋で会って以降、ずっと考えていた。


 騙していた事を怒るべきなのかって。


 それとも、騙されていた事を悲しむべきかって。


 それとも…………、レイノルドにハーレム作りを応援されていた事にがっかりするべきかって。


 けど、何よりおかしいのは、レイノルドがここにいる事だ。


 どうしてこの格好で、この部屋まで会いに来たのだろう。


 驚かす為?

 騙す為?

 それとも、サウスフィールドを出し抜く為?


 けど、それも何かがおかしかった。


 心を許したつもりはない。

 最初から今までずっと気を使って会話をしてきた。


 それでも、何か聞き出すでもなく、懐柔するでもなく、ただハーレムの相談をしてきたのだ。


 …………ハーレムを作りたかったのかしら。

 もしかして、自分のハーレムを作るためのノウハウを…………。


 レイノルドは、アリアナの前でお茶を飲む。


 いつもと同じようなゆったりしたライトの顔で。


 あ……、ライトの顔だ。


 ふと思う。


 それは確かに、すっかり見慣れたライトの顔だ。

 そして、レイノルドの時には見ない顔。


 レイと一緒に居て、こんなにふんわりとした笑顔は見たことがない。

 リラックスしている、力の抜けた顔。


 もしかすると、レイの時にかかっている荷重が、ライトの時にはないのかもしれない。


 もしかすると……気晴らしにこうして夜出歩いてるのかしら。


 それは少しあり得るような気がした。


「今日のケーキはね、南側に出来た最近話題のお店のものなの」

「へぇ、美味しいね」

「ね!『グッドナイト』っていうお店らしいわ。けどここの一番人気のメニューはイチゴのパフェらしいの」

「アリアナは甘いものが好きだね。けどそれも美味しそうだ」

「でしょう?けど、パフェはテイクアウトできなくて」

「ふふっ」と笑ったアリアナに、レイノルドはにっこりと笑った。


「じゃあ、今度一緒に行ってみようか」


「………………っ」


 そのレイノルドの笑顔に、アリアナは息を呑む。

 泣きそうになった。


 嬉しそうで、楽しそうで、こっちまで幸せな気持ちになってしまう笑顔。


 まるで、子供の頃みたいな。


 ……レイったら、そんな顔してたの……。


 私の前でそんな顔してたなんて知ったら、……何も言えなくなるじゃない。


 アリアナは、紅潮した顔で笑う。


「ええ。ぜひ一緒に行きましょう」



◇◇◇◇◇



アリアナは、ライトとしてのレイノルドをもうちょっと見ていたいと思ったかもしれませんね。

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