218 え、ちょっと待って(2)

 その日の夜は、星が輝く夜だった。


「こんな夜は〜〜〜、あの人に会える気がするの〜〜〜〜〜〜♪」


 星を数えながら、部屋のバルコニーで鼻歌を歌う。


 そう、こんな雰囲気の日には、ライトが来るような気がするのだ。


 タンッ。


 と、後方から誰かがバルコニーに飛び降りた音がして、後ろを振り向く。

 バルコニーの曲がり角から出てきたのは、確かにライトだった。


 夜空の中で、その黒髪はより一層綺麗な漆黒に見える。


 黒いけれど透き通るような瞳が、星空のように煌めく。


 時が止まったような視線が合う瞬間の後、ライトがアリアナににっこりと笑った。


「どうしたの、こんなところで」


 すると、今度はアリアナがライトに向かって微笑む。


「あなたを待ってたのよ」



 二人の時間は、そんな夜風の中で始まった。

 いつも通り、テーブルの上には、ちょっとしたおやつとしてブドウが載っていたし、温かなお茶が用意された。


「しばらくは、ハーレム計画は考えなくていいんじゃないかと思うの」


 その言葉を聞いてライトは、もしかするとアリアナは、自分がパートナーに誘ったせいでハーレム計画を一旦中止にするつもりになったんじゃないかと思った。


 ……自分を見てくれているんじゃないかと。


「……どうして?」


 冷静になろうと努めるけれど、ライトの目はつい期待の色に染まる。


「『ハローハーモニー』のおかげで……、それにライトのおかげで全員が集まったわ。しばらくこのままで行こうと思う」


 ……そんな簡単には、いかないか。



 そんなわけで、二人の会話は普通の雑談となった。


「それで、もうすぐパーティーがあるのだけど、少し緊張してしまっていて」


「アリアナが?」


「そう。誰かのパートナーなんて初めてだもの」


 アリアナはそう真剣な顔で言ったけれど、本当のところは“誰か”のパートナーなんて理由ではなかった。

 ……よりにもよって“レイノルド”のパートナーだから、つい緊張しちゃうのよ……。


 本当に緊張しているのを見て、ライトが優しく笑う。


「大丈夫だよ。なんなら少し、踊ってみようか?」


 ライトが立ち上がり、アリアナに手が差し出される。


 それは練習というよりは、どちらかと言えば緊張をほぐすため。アリアナが落ち込んだ瞳を見せたから、少しでも元気を出そうとする意味のダンスだった。


 そんな気持ちが伝わったので、アリアナはその手に自分の手を添え、立ち上がる。


 優しい。


 ライトは優しかった。

 いつだって、優しいんだ。


 だから、憎めない。疑えない。


 ふんわりとしたワンピースの裾が揺れ、ライトとアリアナが向かい合う。


 二人が笑い合う。

 それはまるで、物語に出てくる正体を知らずに出会った王子様とお姫様のようだった。


 ライトが小さなオルゴールのような箱を取り出し蓋を開けると、そこから小さくワルツの音楽が流れ出した。


 二人は挨拶のお辞儀をして、ダンスの格好になった。


 ライトのリードで、足を踏み出す。


 …………え?


 くるりとターンする。


 アリアナの顔からさっと笑顔が消え、呟くような小さな声で言葉が吐き出された。


「え、ちょっと待って?だってそんなの、嘘でしょう?」



◇◇◇◇◇



黒髪状態でのイチャイチャもお楽しみください!

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