216 ダンスレッスンをいたしましょう(3)
「アリアナ」
それはなんてことないいつも通りの呼び方だったけれど。
差し出された手も、ダンスをするのには当たり前のものだったけれど。
どうして私は、こんなにドキドキするんだろう。
右手で、レイノルドの左手を掴む。
引き寄せられると世界はキラキラと輝いた。
ふんわりとしたレイノルドのリードで、踊り出す。
ハッキリとしたステップ。
それでいて飛ぶように踊るそのステップ。
レイノルドとのダンスは、思った以上に楽しいものだった。
それに、ダンスというものは、こんなにも一歩一歩にドキドキするものだっただろうか。
二人は、ホールの中をくるくると踊った。
レイノルドは、ダンスが上手いとか下手とかいう以前に絵になるのだ。
ただただ、その外見のよさ故に。
……いちいちポーズが綺麗にまとまるのは、公爵家の教育の賜物だろうか。
「レイ」
「うん?」
「あなたってダンスが上手なのね」
「アリアナこそ、ダンスが上手だね」
レイノルドは、夏休み前の高等科のダンスレッスンの時に、アリアナのダンスを見ていた。
あの頃、アリアナのパートナーになりたいと思いながら見ていた事を思い出す。
きっと、この事をアリアナに言う事はないだろう。
羨ましげに見ていた事なんて、言えるはずもなかった。
……そんなカッコ悪いところ……。
だからこそ、パートナーというこの居場所は、レイノルドにとって夢のような場所だった。
けれど、あっという間にダンスは終わる。
なんの演出かはわからないけれど、音楽がゆっくりと小さくフェードアウトしていくのと同時に、照明までもがゆっくりと落ちていく。
なんだか目の錯覚かと思える星のようなささやかな輝きを天上に仰ぐ暗闇の中で、ゆっくりとレイノルドとアリアナは歩調を緩め、止まった。
アリアナは、心の中でドギマギとする。
ダンスは終わったけれど、周りが見えないので、二人はくっついたままだった。
それは、小さく輝く星が、瞬いては消えていく、ほんの数秒の事だ。
ただ、アリアナにとって、ダンスでもないのにひっついているこの数秒は、重大なものだった。
この演出……どういうことなの…………。
息をするのも躊躇われるこの空気。
視界に何も見えないものだから、手に触れる体温だけに集中してしまう。
手に汗をかきそうだ。
すっと闇が消えるように、ホールの明かりが灯される。
照れてしまうのを止める事が出来ずに、真っ赤な顔で睨むようにレイノルドと顔を見合わせる事になってしまう。
右手が離しがたくて。
それでも離さないわけにはいかないから。
すぐに目を逸らして、アリアナは仕方なくその手を離した。
◇◇◇◇◇
どちらも公爵家の人間らしく、ダンスは上手いようです。
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