213 期待してもいいですか

 パーティーのドレスについて、レイノルドがどうするつもりなのか知ったのは、アリアナがまたドレスの相談をしようと懇意にしている仕立て屋へ行った時だった。


 ローラの仕立て屋は、知る人ぞ知るドレス専門店だ。

 店構えはちゃんとしているものの、看板は出ていない。

 知る人だけが、その店へ入り、ドレスを注文する事ができるのだ。


 とはいえ、噂になる程の仕立て屋である事は間違いようのない事実で、貴族のご令嬢達が押し寄せ、学年末パーティーでの一番人気の仕立て屋であった。


「学年末のダンスパーティーのことなのだけれど」


 と、出されたお茶に一口お茶を飲み、真っ直ぐに前を向いたアリアナが見たのは、夫人のニコニコ顔だった。


「まだ、お聞きになっておりませんのね」


 ツンツンとしたメガネに似合わず、常にニコニコしている夫人が、いつも以上にニコニコしていた。


「何をです?」


 キョトンとしたアリアナの顔を見て、夫人は「うふふ」と口に手を当てた。

「パートナーになる方は……」


「あ、ルーファウス公爵家のレイノルドです」


 名前を言うのに、珍しくアリアナのポーカーフェイスが崩れる。

 赤くなるでもなかったけれど、僅かにまつ毛が震えた。


 そのアリアナの姿を見て、夫人は目をキラキラさせ、「うふふふふ」と笑う。


「では、このご相談はほぼ必要ないと思います」


 そう言ったので、怪訝な顔をしたアリアナは、けれどすぐに何かにハッと思い至った。


「え…………?」


 見開かれたアリアナの瞳が潤む。


「けど……そんな…………」


 夫人がにっこりと微笑む。

「その予測で、間違いないと思いますわ」


「…………へ……?」


 アリアナが、呆然と夫人の顔を見た。

 夫人の表情から、真実を見極めようとするかのようにじっと見つめる。


「いくつか、お好みだけお伺いしますわね」


 そう言った夫人の質問は、本当にただ、アクセサリーの形はどんなものが好きか、キラキラの度合いはどれほどが好きかなど、細かい調整といえるようなものばかりだった。


 ドレスの色も形も、聞かれる事はなかった。


 それって…………、そういうこと、よね。



 アリアナは、翌日のアレスの勉強の時間に、顔を出した。

 ちょうど勉強を切り上げて、レイノルドとアレスとルナの3人でお茶を飲んでいるところだった。


 一緒に少しだけお茶をして、レイノルドが帰る時、一緒に部屋を出た。


「あのね、レイ」

 と、部屋を出たところで声をかけたのはいいけれど。


 ……廊下には騎士達が居て話しづらいわね。


 サウスフィールド家の廊下には、この時間であればどこもかしこもに騎士が居る。

 それは見習いだったり雑用だったり護衛だったりするわけだけれど。


「どうしたの?」


「えっと……」


 結局、レイノルドの後をついて来て、玄関の外まで出てしまう。


 外は、すっかり夜だった。

 月が顔を出している。


 外であっても静まりかえっているとは言い難いほど、遠くで騎士達の訓練の声が聞こえた。

 そんな遠いざわめきを聞きながら、アリアナはレイノルドに声をかける。


「あのね、レイ」


 ゆるゆるとしたアリアナの髪が、揺れた。


「ローラのところに行ったのだけど」


 少しきょとんとしたレイノルドは、「ああ」と理解した顔になる。


「ドレスってもしかして……レイが準備してくれてるの?」


「…………」

 どうやら返答を考えていなかったレイノルドは、少しだけ居心地が悪そうな顔をする。


 そして子犬のような顔でアリアナの顔色を窺うように見つめた。


「…………っ!」


 そ、そんな可愛い顔で見てどうしようって言うのよ!!


「もしよかったら、」


 澄んだ空気の中に、レイノルドの声が響いた。


「僕が選んだドレスを着てくれないかな……」


 本当に……ドレスまで用意して…………?


 そんな…………嬉しい事………………っ……。


 アリアナは、気持ちが外に出ないよう、細心の注意を払い、言葉を紡ぐ。


「ええ、構わないわ。……パートナーだもの」


 アリアナは、恥ずかしさを隠す為、そっと目を逸らした。



◇◇◇◇◇



いよいよイチャイチャが増して来たよね!ハッピーエンドへこのままGOです!

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