212 朝の空気の中で

 アリアナは、結局よく眠れずに、早朝庭園へ出てきた。


 部屋から見える真冬の庭園は、寒いながらも空気が澄んでいて居心地がいい。


 庭の真ん中にレイノルドがいるのを見つける。


 魔術師のマントをつけているところを見ると、すっかり日常の服に着替えてしまっているらしい。

 朝に強いんだ、この人は。


 こんなところにいるところを見ると、結局帰らせてもらえなかったようだ。

 欠伸をしているところを見ると、アレスに付き合わされたのか、父に付き合わされたのか。


 こちらに気づいたレイノルドは、少し安心したような嬉しそうな顔をして、それから直ぐに困った顔になった。


「おはよう、レイ」


「おはよう、アリアナ」


 言いながら、レイノルドは自分のマントをアリアナにかけてやる。


「君はいつも仕方がないね」


 確かに、アリアナの服装はあまりにも雑だった。

 部屋着の上に、部屋用のガウンを着て、外出用のコートを着ている。

 寒くないようにと自分なりに工夫したつもりだったのだけれど、レイノルドから見ればこれでもまだダメな部類らしい。


 アリアナは、レイノルドの顔を見上げた。


「だからって、こんな大事なものを借りるわけにはいかないわ。寒いわけではないのだし」


「大事なもの?」


「マント。魔術師としての資格のようなものでしょう?これを着ているから出来ることも入れる場所も多いと聞くわ」


「……今、君のその格好を守る事以上に大事な事なんてないよ」


 実際、アリアナはレイノルドから見れば、困った格好をしていた。

 コートの隙間から出る足はブーツを履いているとはいえ素足のままで、この寒空の下、冷えないわけがなかった。

 その上、その部屋着というのは昨夜閉じ込められていた時の格好だ。

 つまり、その素足というのも、昨夜と同じものが見えているわけで。

 色々と思い出してしまい、目のやり場に困る。

 正直、隠してくれないと居た堪れないというのがレイノルドの感想だった。


「あの、ね」


 アリアナが、レイノルドの顔を見上げる。

 吐いた息は、晴れた空に白く広がる。


「パーティー頑張るわね!ドレスも決めなくちゃだし、ダンスの練習だって……」


 アリアナが捲し立てると、レイノルドはアリアナを観察するように眺める。


「そんなに頑張る必要ないよ」


「え……」


 そんなはずはない。

 高等科ともなれば、ドレスのシンクロ率や色の使い方なども気にするはずで、どんなドレスでもいい事はないだろう。

 それで噂になったり、政敵が現れたりするのだから。


「けど……」


 反論しようとしたアリアナだったけれど、レイノルドがマントの前をしっかりとかき合わせ、「大丈夫だよ」とあまりにもハッキリと言うものだから、なんだか何も言えなくなってしまう。


「アリアナはそのままで居ればいいよ」


 その言葉にふと、昨夜のルナの言葉を思い出す。


『姉様は、そのままでレイの隣に居るときが一番かわいいわ』


 もし、レイにまでかわいいなんて思われているとしたら……。


「そのままが…………かわいい?」


「…………」


 レイノルドは、その思いがけない質問に、ぴったりと止まった。


 ……もし、レイにまでかわいいなんて思われてるとしたらそれは……、私の気持ちが……。


 レイノルドは、口を引き締めたまま、あからさまな照れ顔になる。


 私の気持ちが……漏れていたりするんじゃ……。


 そんな事を思い立って、アリアナまでぽぽぽっと照れてしまう。


 そんな朝だった。



◇◇◇◇◇



イチャイチャしている二人。こんな二人ですが、仲はいいです。

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