92 王宮の庭で(1)

 アリアナとレイノルドとエリック。三人で仲のいい幼馴染みだ。

 小さい頃は、三人で遊ぶ事も多かった。

 アリアナとレイノルドが疎遠になってからも、他の兄弟達とは仲が良く、アリアナとエリックまでが疎遠になることはなかった。


 小さい頃のように走り回って遊ぶ事はなくなったものの、時々、王宮の庭で、二人でお茶を飲む。

 兄弟達とお茶を飲む事ももちろんあったけれど、二人でお茶を飲む事も多かった。


 薄曇りの夏休みのある日。

 この日も二人は、お茶を囲んだ。

 離れたところに王宮の護衛とジェイリーが並んで立っている。


 アイスティーをいただく。

 今日は、マカロンや小さなレアチーズケーキなどが並ぶ。


 いつか三人で遊んだ華やかな王宮の庭で。

 エリックは今日も穏やかな顔で、アリアナの前に居た。


 レイノルドとの仲直りが上手くいかなかったあの日、ずっとアリアナのそばに居てくれたあの頃と同じように。

 一緒にケーキを食べてくれたあの日と同じように。


「最近、おかしいね」


 エリックが、アリアナに言う。


「え?何が?」


 アリアナが、きょとんとエリックを見る。


「君だよ」


「私が?」


 何事かと、じっとエリックを見ていると、エリックはフォークに刺したクリームたっぷりのスポンジケーキをアリアナの口元に差し出した。


「あーん」


「あーん」


 もぐもぐ。

 流石、王宮パティシエ。

 クリームのスポンジのきめ細やかさに、甘いクリームが絶品だわ。


「だって、さ」

 エリックは言いかけて、またフォークに刺した一口分のタルトを、アリアナの口の前に差し出した。


 アリアナが口をパクッとすると、タルトはエリックに引き寄せられるように引っ込む。


「…………」


「この間の髪型といい、学内で大勢引き連れていることといい」


 ああ、そうか。

 エリックは、私が以前と少し変わったと言いたいんだ。

 そう。

 私が1週間寝込んでしまう前。

 つまり、前世の記憶を思い出す前と。


 確かに、違うかもしれなかった。

 左門とアリアナは、根本的には同じ魂だ。

 けれど、知っているものが違う。環境が違う。

 知っているか知らないかで、行動だって変わってくる。


 やはり、アリアナは、左門の記憶を知る前と少しだけ違っていた。

 何か、とても精神を揺さぶられる長い長い物語を読んだ時みたいに。


「別に、おかしくないわ」


 言ってはみたけれど、幼馴染みであり、次の王様になるかもしれないエリックを、騙せるとも思えなかった。

 誰より一緒にいる時間が長いかもしれないこの人に。


 エリックはまるで子犬に餌を与えるかのように、フォークのタルトを改めてアリアナに与えた。


 もぐもぐ。


 甘いタルト。


 ふざけた事をやっているのに、エリックの顔は真剣だ。



◇◇◇◇◇



エリックとアリアナはとても仲良しです。まあ、授業も並んで受けてるくらいだし。

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