89 学校の先生(3)
「何してるんだよ」
アリアナと二人の子供達の上に、マーリーの声が降り注いで、そこで質問は途切れる事になった。
チノが、
「今のは黒猫の声だよ。あるだろ、3ページ目に」
と、不服そうな声をあげた。
確かに、物語の3ページ目には、『ニャーオ』と黒猫が声をあげるシーンがある。
ひとつため息を吐いたマーリーが、
「猫ならもっと猫らしい猫にしろよ」
と、呆れた声で言いながら、眼鏡をくいっと押し上げる。
三人は、顔を見合わせて、「へへっ」と笑いあった。
そんな風にして、のんびりと太陽が昇っていく午前中、授業は進んで行った。
そよそよと、庭にある木が揺れる。
「さて」
と、マーリーがみんなの前に立ったのは、それから1時間ほど経った頃の事だった。
「そろそろ一コマめの授業を終わりにする。アリアナ先生に手伝ってもらうのは、ここまでだ」
マーリーがそう宣言すると、みんなから、
「えー!?」
と声が上がる。
これはちょっと嬉しい足留めだ。
「一コマ手伝いに来てもらっただけだからな」
「先生!じゃあ、アリアナ先生と運動できないの!?」
チノが立ち上がった。
「ああ」
マーリーの返事はそっけない。
嬉しいけれど、ずっとここにいるわけにもいかない。
カーンカーンと、授業が終わる鐘の音が鳴った。
次は運動の授業らしいから、なにかと準備もあるだろう。
「楽しかったわ」
アリアナが、にっこりと笑う。
「先生と遊びたーい」
「また来てねー!」
「やだー」
思い思いの事を言う生徒達に手を振って、アリアナは学校を出た。
学校は、木造の校舎で、それほど大きくない平屋づくりの建物だ。
窓から先ほどの生徒達が手を振っていた。
見送りに出たマーリーが、ニッと笑う。
今までこんな風に笑顔を見せた事があっただろうか。
出会ってからずっと、試験対決ばかりの交流だったから、笑い合った事なんて多分なかった。
なんだ、可愛い顔して笑えるんじゃない。
「楽しかっただろ?」
マーリーが返事はわかってる、という顔で尋ねる。
「ええ、そうね。楽しかったわ」
アリアナも対抗して、少し偉そうな顔になった。
「まあ、生徒はちゃんと見てたみたいだからな。手伝いならいつでも歓迎するよ」
思わぬ言葉に、アリアナは少し考え、そして、にっこりと笑った。
「そうね。また気が向いたら来てあげてもいいわ」
楽しかったのは本当。
子供達と勉強するのは、思ったよりも楽しいものだったのだ。
ジェイリーに合図をする。
手をひらりと振ると、アリアナは髪を靡かせ、学校から去っていく。
風が長いスカートを捌く。
青い空と庭にいる猫と生徒達が、アリアナを見送った。
◇◇◇◇◇
何か作業するという点ではマーリーとは気が合うようです。
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