88 学校の先生(2)

「先生その人だれー?」

「だーれー?」

 口々に言う子供達に、マーリーが、

「始まったら挨拶からしてもらうから、待ってろ」

 と、気安い返事を返した。

 かなり長い間ここで先生役をしているんだろうか。


「このクラスは、ゆっくりと進行するクラスだから、気軽に構えていていい」

「他にもクラスがあるのね」

「ああ。夏休みだけのクラスや、専門家を目指すクラス。色々だ」

「なるほどね」


 カーンカーン、と、鐘を叩く音が聞こえると、授業の始まりだ。

 ざわざわとしながら、40人ほどの生徒達が席に着く。


「今日だけ、特別に勉強を手伝ってくれる先生を呼んだ。アリアナ・サウスフィールド先生だ」


 マーリーの大きな声。

 そして同時に、子供達の声がわっと聞こえた。

「よろしく先生!」

「サウスフィールド先生!」

「美人じゃん!」


「サウスフィールド公爵みたいな名前!」

「反抗したらその場で切られるっていう”王の剣“?」

「うわ、先生なんでそんな怖い人連れてきたの!?」


「はい、じゃあ授業を始める」


 子供達の質問もものともせず、マーリーは持ってきた教科書を読み始めた。

 勝手知ったるとでもいうのか、マーリーの朗読の声に、子供達は静かになる。

 マーリーが読むのは、猫が町を散歩する、簡単な物語だ。

 マーリーが数ページにわたる物語を朗々と読み上げると、それぞれの授業が始まった。


 アリアナがまかされたのは、7歳の二人。

 二人とも、文章を読み上げるのが今日の課題だ。


「はい、じゃあそうね。一文ずつ読んでみましょうか」

「いいね!」

 アリアナにウィンクを寄越したのは、男の子のチノ。

「はーい」

 元気よく返事をしたチノは、真面目な顔をして教科書に向かう。

「『空の青。』」

 それに呼応するように、女の子のニニが、

「『屋根の赤。』」

 と読み上げる。

 二人が威勢よく読み上げたのは、そこまでだった。

「『夢うつつの』……???」

「クロネコ」

 アリアナが、読み方を教えながら、読み進める。

「『黒猫は、音もなく。』」


 そんな風にして読み進めていたところ、1ページほど読んだところで、チノが真面目な顔で手を上げた。

「はい、チノ」

 真面目な子だと思っていられたのもそこまでだった。

 チノはすっかり授業に飽きていたのだ。

「アリアナ先生!どっちが先生の彼氏ですか!?」

「……?」


 ん?

 授業に似つかわしくない質問だけれど、別に隠しているわけではない。

 友好的にするという意味では、答えておいてもかまわないだろう。

 どっちが、ということは、マーリーとジェイリーのことよね。

 ジェイリーとは主人と護衛の関係だけど、マーリーは違う。

 クラスメイトであり、将来私のハーレムに入ってもらう予定の人だ。

 とはいえ、まだ何か関係のある人ではないし。

 まあ、恋人なんて言える関係の人はいないというのが答えかな。


 アリアナは、にっこりと笑顔をつくると、

「どっちも違うわ。今のところは、ね」

 と"内緒"を意味する人差し指を唇の前に立てた。


「ふぉぉお!?」

 チノとニニは二人して声をあげた。



◇◇◇◇◇



子供達は、噂のサウスフィールド公爵とアリアナが家族だと気づいていません。

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