87 学校の先生(1)

 まさか、シシリーがあんな風に考えてくれていると思わなかったわ。


 アリアナは、シシリーの真剣な顔を思い出した。


 けど確かに、シシリーのお祖父様は宮中で、王家を陰日向と支えていた人だ。

 確かシシリーのお母様も王宮にいるはず。

 本人も、裏表のない付き合いやすい人だわ。

 味方につけておいて損は無し……。


 考えながら、ジェイリーと町を歩く。

 シシリーがそういう考えなら、侍女にしろ秘書にしろ、シシリーの居場所は今から空けておかないと。


 そうなると、アイリの位置はどこかしら。

 将来は二人ともハーレムに入ってもらうとしても。

 すぐにお小遣いのための収入を得て欲しいけど、流石に町中でバイトのように働くのは令嬢として外聞が悪い。


 考えながらぼんやり歩いていると、

「あ、お嬢様!止まって!」

 とジェイリーが止める声が聞こえた。

「え?」

 聞き返したはいいけれど、そのまま前に突っ込んでいく。


 ドシャン!と誰かとぶつかったアリアナは、後ろへよろけ、ジェイリーに支えてもらう。

「う……」

 ジェイリーに抱えられたまま前を確認すると、本が何冊かばら撒いてしまっていた。

「すいません!」

 ぶつかった人物が飛んでくる。

「いえ、こっちも前を見てなかったものだから」


「あ」

「え?」


 見ると、本を抱え歩いていた人物は、マーリー・リンドベルだった。


「マーリー。ご機嫌よう」

「ご機嫌よう」


 本を拾い上げつつ様子を窺う。

 貴族じゃなくても着ていそうな動きやすそうな服。

 本は、子供向けの物語や算数の教科書のようだった。


「何処へ行くの?」

 尋ねてみる。

 もしかしたら返事なんて返ってこないんじゃないかと思っていたけれど、

「学校だよ。この近くの学校で、時々教師として手伝っているんだ」

 と、案外まともな返事が返ってきた。

 やはり、試験で勝ったのが効いているんだろうか。


 マーリーは学校で先生をやっているのね。

 リンドベル家はアカデミー経営で忙しいだろうに。

 格好からして平民の学校へ行くのだろう。

 慈善活動も学校関連だなんて、リンドベル家らしいし、マーリーらしい。


「それって、見学してもいいかしら」

 マーリーに近づこうとした上での言葉だった。

 そんなアリアナをマーリーはじっと見て、

「手伝うならいいよ」

 と眼鏡をキラッと光らせた。


 やってきたのは、平民街サークルタウンの通り沿いの小さな木造の学校だった。


 ギ……ギギ……、と音を立てて金属製の門が開く。

 貴族生活が長くて多少驚いてしまったけれど、そういえば左門が行っていた学校の門も、ギィギィいう大きな門が付いていたっけ。


「年齢は下が5歳、上が10歳。今日やるのは、文字の読み書き。それぞれのレベルに合わせてやるから」

 マーリーが歩きながら説明する。

「わかったわ」


 二人、教室に入り、まだ休憩時間中の生徒達の名前と年齢の確認をしていく。

 この辺の息の合わせ方は、中等科から3年以上も同じクラスで上位争いをしていただけの事はあり、きびきびと進んでいく。

 護衛のジェイリーは、武器を下ろし、簡素な格好で教室の外から覗いてくれていた。



◇◇◇◇◇



そんなわけで3話構成の学校の先生イベントです。

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