82 心配するでしょ?

 夕食も食べず、朝食も抜いて、結局アリアナが居間に顔を出したのは、昼食の時間だった。


 顔を出すと、シシリーとアイリが前日に買い物をしたものを広げて見せ合いっこしているところだった。


「おはよう、二人とも」

 用事だなんだと言って出かけてから、ちゃんと会うのは久しぶりの事だった。

 少し、気まずく感じる。


「あ、アリアナ様!」

 アイリが頬を膨らませてアリアナを見た。

 やっぱり怒ってる?

 シシリーを見ると、やはり少しプンプンしているようだ。

「今までどうしてたの?」

 という質問に、アリアナは、

「食欲なくて」

 と答えるしかなかった。


 シシリーが間近でじーっとアリアナの瞳を覗き込む。

 近い!

「これは……」

「待って、シシリー。近いわ」


 ふいっと離れたシシリーは一つ息をついた。


「悪い意味の食欲不振じゃないわね」


「…………」

 アリアナは顔をそらす。

 それは、肯定の意味にしかならなかった。


「と、いうことは」

 顔を上げたアイリは、心なしか目がキラキラしている。

「何かいいことがあったんですね?」

「そういうことね」



 それから三人は、昼食がてら、おヒゲのミートパイが作ったチェリーパイを持ってピクニックに出掛けた。

 丘の上にシートをひき、三人は輪になって座った。


 風の香りが心地いい、気持ちのいい場所だった。


 お皿に乗った、クリーム付きのチェリーパイ。

 受け取ろうとアリアナが手を伸ばしたところで、チェリーパイはアリアナから離れるように飛んでいく。


 チェリーパイを手にしているのは、

「ふんっ」

 と鼻息を吐いたシシリーだ。

 アイリも、アリアナに少し泣きそうな顔を向けた。


「心配するでしょ?引きこもって泣いてるんじゃないかって。泣くようなことがあったんじゃないかって」

「…………」

 二人の顔をアリアナが見つめた。

「ごめんなさい」

 素直に、そう言葉に出た。


 チェリーパイは、まだアリアナの元には来なかった。

 シシリーは、更にチェリーパイを高く掲げる。

「じゃあ、どんなことがあったのか話してもらおうかしら」


 アリアナは、

「特に何もないわ。」

 と言ってみせたけれど、少し火照った顔は説得力に欠けていた。


「うん、それで?」

「パンケーキをいただいたら、お腹がいっぱいになっちゃって。夕食が食べられなくなってしまったの。今朝は、剣の訓練に出たら、食べ損ねてしまって」


「ふ~ん」

 アリアナがなんとかなったと思ったのもつかの間。


「つまり、ルーファウスのお坊ちゃんとパンケーキデートをして、胸がいっぱいになっちゃったってことね」

「……!」


 確かに、馬車を見れば誰だかまるわかりだ。


「そういうのじゃないわ!だから……つまり」


 シシリーとアイリが、アリアナの顔をじっと見る。

 心なしか、二人の顔はちょっとニヤけているようだ。


 一体私は今、どんな風になってしまっているんだろう。


「そのパンケーキを見ないと、何もなかったって確信が持てないわね」


「じゃあ、明日……」

 アリアナが言いかけたところで、シシリーが、

「嘘よ、嘘」

 と、切り捨てる。

「あなたの大切な思い出に、茶々を入れるつもりはないわ」


「…………」


 シシリーがチェリーパイを一口フォークに突き刺し、アリアナの口に突っ込む。

「まったく、しょうがない子ね。こんなあなた、見た事ないわ」

 アイリまで、チェリーパイを一口。

「アリアナ様、かわいいですね〜!」



◇◇◇◇◇



女の子三人、かなり仲良くなったようですね。

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