80 デートじゃない日(3)

 出てきたパンケーキは、小さくともボリュームのある、3段重ねのクリームとフルーツがたっぷりのパンケーキだった。

 爽やかなジュースも付いている。


「す、ごい……!」

 アリアナが目をキラキラさせながら言うと、レイノルドは満足そうな顔をした。


 ちょっとだけはしゃぎ過ぎたかしら。


 頬を手で包み、冷静な顔を取り戻すと、改めて、ナイフとフォークを握った。

 ナイフでパンケーキを触ると、クリームがとろりと流れ、パンケーキを包む。

 小さく一口、口に入れる。


「…………!」


 ああああああああああ!


 この……!


 バターの香りでいっぱいのパンケーキ!!

 それにとろとろに甘いクリームが混じり合って、口の中がふわふわのもちもちだわ!!


 フルーツだって、これはリンゴでしょ!

 これはモモ!

 ブルーベリー!

 えっ、じゃあこれは?


「ねえ、レイ……」

 パッと顔を上げるとレイノルドは、驚いた顔でじっとこちらを見ていた。


「…………あの……」


 あまりのはしゃぎ過ぎに、アリアナの顔がパッと赤くなる。


 レイノルドが、面白そうに笑ったので、もうそこでダメだった。


 表情が立て直せない……。

 頭の中がクラクラして、何を話していいのかわからなくなる。


 なんで私、レイと二人で美味しいもの食べてるんだっけ……!


 それでもパンケーキは美味しくて、レイノルドの方を見ないのは、太陽が眩しいからだって心の中で言い訳をしながら、パンケーキを食べた。


 そこからは、ろくに会話も出来なかった。


 食べ方は変じゃないだろうかと考えながらパンケーキを食べ尽くし、マナーに気をつけながら最後に出てきた紅茶を飲んだ。


 レイノルドだって、そこからは何も言わなかった。


 なんだかぎくしゃくした時間を過ごした。


 紅茶を飲み干すと、話す事はなくなる。

 沈黙まで共有できるほど仲良くもなく、レイノルドに緊張が伝わってしまうのではないかと思うような時間が訪れた。


「お詫びになったかな」

「ええ。だって、もともと見たわけじゃなかったんでしょ?」

「…………ああ」


 その妙な間!

 神妙な顔つき!

 やめて!


「じゃあ、そろそろ帰ろうか」

「……うん」


 時間も時間だった。

 お詫びのパンケーキも食べてしまった。

 これはデートでもなく、これから用事もない。


 もう、家に帰る時間だ。


 アリアナには、肯定の返事しかできなかった。


 夕方に差し掛かる前に、レイノルドはアリアナを家に送ってくれた。


「またね」

 と言うと、相変わらずそっけない、

「ああ」

 という返事だけをして、そのまま帰ってしまう。


 これはデートじゃない。

 だから、次の約束もなければ、最後のキスもない。


 アリアナも、くるりと屋敷にとって返すと、スタスタと玄関の扉をくぐった。


 自室に戻る途中で、シシリーとアイリに声をかけられる。

「あ、アリアナ。おかえりなさい」

「ただいま」

 振り返らずに、返事をした。

 そのまま振り返れずに、自室に入る。


 一人、ベッドに倒れ込むと、枕を抱き締めてぎゅっと目を瞑った。

 そしてそのまま、息が止まりそうな気持ちが、過ぎ去るのを待った。



◇◇◇◇◇



見たか見てないかで言えば、見た反応しかしないレイノルドくん。

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