79 デートじゃない日(2)

 外に出ると、執事が訪問客を迎えたところだった。

 馬車から出てきたレイノルドは、思った以上にきっちりとした服を着ている。


 こちらを向いたレイノルドが、

「やあ、アリアナ」

 と声をかけた。


「こんにちは、レイ」

 出来るだけ、にこやかに挨拶する。


 出来るだけ緊張しないように。

 普段通りに。


 けれど、レイノルドが馬車に乗るのにエスコートしようと手を出した瞬間、普段通りの顔を保つ事が、難しくなった。


「…………」


 レイが……エスコート???


 こんなの初めて見るわ……!!


 こんな事が出来るようになったのね。

 他でもやってるのかな。

 いつの間に、子供じゃなくなっちゃったのかしら。


 これじゃ本当にデートみたいじゃない。


 それでも、何事もないようにレイノルドに手を差し出す。

 手が、触れた。


 ……レイの手、冷たい。


 緊張してる?


 小さい頃は手を繋いだ事もあったはずなのに。

 こんなだったか覚えていない。


 馬車に乗ると、手はあっという間に離れていく。


 馬車に向かい合わせで座る。


「…………」

 カタカタと、馬車が走り出した。


 レイノルドは、窓の外をじっと見ていた。

 やっぱり、どこか表情が硬い。

 緊張しているような気がした。

 ……そんな顔をされていると、こっちまで緊張してしまうじゃない。


 こんな密室で二人きりなんて初めてだし。


 相手は、よく知っているレイノルドというこという事もあって、護衛はジェイリーを連れてきているけど、馬車に乗るのは控えてもらった。


「これから、どこに行くの?」

「ああ」

 声を掛けて初めて、レイノルドがアリアナの方を向いた。

 レイノルドの瞳が、陽光に煌めくのを見る。

「町はずれに、アリアナが好きそうな店があるって聞いたんだ」


「私が?」


「パンケーキが美味しいって聞いたからさ」


「へぇ……」


 そんな店を調べようって、思ってくれたの?

 この人が、どんな風に人に聞いて、どんな風にそこに決めたんだろう。

 考えるだけで、ソワソワしてしまう。


 やってきたのは、町はずれにある小さな店だった。


「ここ……」

「知ってる店だった?」

「ううん」

 レイノルドが手を差し出してくれる度に、いちいち冷静にならなくてはいけなかった。


「馬車の窓から見て、ずっと気になっていたの」


 本当の事だ。

 馬車から見た限り、カフェだということに気づいていたけれど、屋敷から遠いため、なかなか訪れる機会がなかったのだ。


「そう、よかった」

 そう、一言言ったレイノルドが、なんだか嬉しそうにしたので、少し戸惑う。


 店の扉は、カランカランと大きな音を立てて開いた。

「いらっしゃいませ」

 にこやかに挨拶に出てきたのは、長身の男性だった。


 元々、どこかの貴族のお屋敷のパティシエだったが、早々に引退し、今は一人で店を経営するばかりなんだそうだ。


 二人は、バルコニーの席に案内される。

 目の前には、大きな丘陵が広がり、花畑が見えた。


「いい場所だ」

「そうでしょう?うちの領地よ」

 ドヤ顔で言うと、

「知ってるよ」

 とレイノルドが笑う。


 また、レイノルドと向かい合わせで座った。


 なんだか不思議な感じだけれど、嫌な気持ちはしない。


「旅行にしては、忙しそうね」

「来週末までに、もう3ヶ所ほど魔術学校を回る予定なんだ」

「ここを拠点に回ってるのね」

「ああ。今日の夜に発って、明日は学校見学」


 国を代表するレベルの魔術師であるレイノルドの事だ。きっと視察のような事をしているのだろう。

 あまり、邪魔は出来なさそうな日程だ。

 もうここで会えないだろう事を知ると、少しだけ寂しく思う。



◇◇◇◇◇



初デート回!!

え?デートじゃないって?そうか……デートじゃないか……。

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