78 デートじゃない日(1)

 朝、早く起きて、すぐにタンスを開けた。


 白と青のワンピースを引っ張り出し、ブーツと髪飾りを合わせていく。


 これはマナー。

 大事なマナー。

 相手が公爵令息だから、キチンとした格好をする。

 それだけ。


 少し経つと、水を持ったメイドが入ってきて着替えを手伝ってくれる。


 王都の屋敷で侍女をしてくれているサナは、この機会に休暇を出しているので、手伝ってくれているのはこの屋敷で働くメイドだ。

 20代半ばくらいのお姉さん。


 今日の準備に悩んだ挙句、まず、ゆっくりとお風呂に入った。


 すっきりとしたいい匂い。

 お風呂の匂いを嗅ぐと、何か香料を入れてくれたようだった。


 パチャパチャと、指先で水面を跳ねさせる。


 髪を梳かしながら、

「今日はおめかしさんですね♪」

 とメイドもご機嫌だ。


「今日は出かけるから。午後に迎えが来るわ」

 と、冷めた声で言ってみたけれど、メイドはニコニコしっぱなしで、どうにも格好がつかない。


 朝食の時も、妙に気合いの入ってしまったハーフアップと、見たこともないワンピースに、シシリーとアイリの二人も声を失った。


「昨日から少しぼんやりしていたけど、今日はどうしたの?」


「あ、今日は午後予定が入ってしまって。少し出かけるわね」

 出来るだけ、やんわりとした笑顔を作る。


「へ〜」

「そうなんですね〜」

 二人はすでにニヤついている。


 小さな声でコソコソと、

「どこに行くんでしょうね」

「どなたといらっしゃるのかしらね」

 なんて言っているけど、聞こえてる聞こえてる!


「そんなのじゃないわ。ただ、用事があるだけよ」

 ツンと言っておいた。


 そう、別にデートなわけじゃないし。


 けれど、ソワソワと午前中を過ごし、二人に心配されながらも午後を迎えた。


 アリアナのお相手を一目見ようと出かけもせずカードゲームに興じている二人を横目に、アリアナは窓の外を眺める。


 場所は決めてなかったから、待ってていいんだよね。


 空の青。

 木の揺らぎ。

 町の鐘の音と、風が吹き過ぎる音の中に、馬車の音が混じる。


「……!」


 馬車は、ルーファウス家の家紋が付いている。


 アリアナは、出来る限り冷静を装って、

「じゃあ行くわ」

 と二人に声を掛け、玄関まで歩いた。


 出来る限り冷静に歩く。


 馬車でお迎えなんて。

 そんな。


 デートじゃあるまいし!


 そう。

 男の人と二人なんて、アリアナには慣れっこなのだ。


 ジェイリーとなら町へ二人で出かけたりもするし、エリックとは二人でお茶したりする。

 ドラーグと二人で昼食を食べることもあるし。


 だからこんなことは、なんてことない。


 アリアナは、玄関の大きな扉の前で、一度立ち止まった。

 右を見て、左を見る。

 まるで、安全でも確認するように。

 どこを見たって、ほんわかとした装飾だけが目に入る。


 アリアナは一つ大きく息をして、玄関の扉を開いた。



「あらあらあらあら」

「まあまあまあまあ」

 窓から覗いた女子二人が、庭先に居るのが誰かを知り、驚きと好奇心の入り混じった顔を見合わせた。



◇◇◇◇◇



自分がどれだけ認めなくても、他の人にはまるわかりってことはあるよね!

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