73 お食事処
ロドリアスやエリックを含めた訓練生の面々は、大食堂で食事をとっていると聞き、せっかく知り合いがいるのならと、アリアナ達もそっちで食事を取ることにした。
どうあっても貴族令息がほとんどの今回の合宿で、そんな荒い事にはなり得ないだろうと思ったのだ。
けれど、その日の訓練を終え、夕食にありついた少年達は、アリアナ達の想像を超えていた。
テーブルの中心に据えられた大皿がみるみる減っていく。
「ミートパイさん!おかわりある!?」
「あいよ!」
「バッカ!おヒゲのミートパイさんて呼べよ」
アリアナ達三人のテーブルは、三人だけの大皿が置いてあり、平和そのものだけれど、すぐ隣を見れば、皿や料理が飛び交い、大変な事になっていた。
「すごいね……」
三人の声は、会話ができるほど聞き取ることもできない。
けれど確かに見知った顔も多々あり、顔は見えないものの、ロドリアスや、いつの間にか訓練生達の方へ合流していたジェイリーの笑い声まで聞こえるので、確かに貴族の子供達である事は間違いないようだった。
圧倒されながら食事は進む。
そして、その大食堂で食事をしていた全員が、肉も野菜も食べ尽くした頃、最後にデザートが出てきた。
デザートはアップルパイだ。
「美味しそう……」
と呟いたところで、周りが静かになった事に気づく。
アリアナ達が顔を上げると、そこにはアップルパイを見事に気取って食べる少年達が居た。
あの、獣の如く肉を求め大声を上げる姿はどこへやら。
丁寧にナイフとフォークを扱う姿は、間違いようもなく貴族の姿だ。
…………!?
三人は、その光景に余りにもびっくりし、アイリなどはすっかり吹き出しそうな顔をしていた。
アイリが口に持っていったコーヒーのカップがカタカタしている。
少年達は、アカデミーの食堂でも見る事のできない高貴な姿だった。
ロドリアスやジェイリーでさえそうで、もう狐につままれたような気分だ。
アリアナ達はそれでも、実際に笑うのは堪えきれていた。
これでもこの少女達は、表情を隠す事ができる貴族令嬢なのだ。
けれど、すぐそばのテーブルの少年達が、
「おヒゲのミートパイ氏のアップルパイは絶品ですね」
「そうですね。この柔らかな甘みと酸味は、ここでしか味わった事がないですよ」
と言いながら、貴族特有の笑みで微笑むと、もう三人はダメだった。
…………!!
さっぱりとアップルパイを食べ切ったところで、
「ご馳走様でした」
と震える声で言い、三人は三人とも大食堂を出て行った。
食堂を出ても、そこは貴族令嬢の端くれ。
頑張って堪えはしたものの、下を向いた三人の肩はふるふると震えるばかりだった。
◇◇◇◇◇
ユーモア溢れる貴族のお兄さん達なのでした。
次回は女子会エピソードです。
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