35 騎士の名家に生まれたからには(3)

 向かって来るシャルルを受け止めるように、攻撃を仕掛ける。

 けれど、アリアナの剣は器用にも避けられてしまう。

 流石に、騎士の名家の息子だけはあるか……。

 けど、私もそうだから……!


 何度も剣を重ね、何度も攻撃を受け流した。


 幸い、シャルルの体力は、アリアナとそれほど変わらないようだった。

 二人とも、息が切れる。

 もうこれ以上、時間をかけるわけには、いかない。


 アリアナがシャルルを真っ直ぐに見る。

 シャルルの攻撃は、少しだけ弛んでしまったようだ。

 アリアナが、少し腰を落とした。


 その瞬間は、まさに奇跡だった。


 アリアナの剣が、その弛みに引き寄せられるように、突き出す。

 アリアナのすぐわきを、シャルルの剣が掠める。


 シャルルは、後ろへ転がり、剣を離してしまった。


「……っ!」


 まるで、時が止まったようだった。


「ま、参りました……」

 シャルルが呆然としたまま呟くと、アリアナが尻もちをつくように座り込んだ。

「…………」


 シャルルと目が合う。

 しんと静まり返った中、シャルルが立ち上がった。

 アリアナが見守っている間に、シャルルが立ち上がり、アリアナに手を差し出す。

 アリアナが、その手に掴まり立ち上がった。

 シャルルが、困ったように笑う。

「完敗だったよ。ありがとう、アリアナ様」

「シャルル、あなたは強かったわ」

 アリアナが、笑顔を返す。

「私のお願い、聞いてくれるんでしょう?」

「ああ。なんでも」

 握手だった手はそのまま繋がれ、シャルルが跪き、忠誠のポーズになる。

「ご用命は何でしょうか、アリアナ様」


 その姿に、レイノルドだけではなく、ロドリアスとジェイリーまでもが尖った視線を注いだ。


「そうね。私の……、」


 レイノルドは思う。

 まさか、ハーレムに入ってくれとか言わないよね?


「お友達になって欲しいの」


 アリアナが、にっこりと笑顔を贈る。


 その瞬間、レイノルドとロドリアス、ジェイリーが、こっそりと眉をひそめた。



 その後は、なぜかジェイリーがプンプンしていた。

「お嬢様を守るのは、俺だけで十分なんですよ?」

「わかってるわ。あなたを信頼してる」

 アリアナは、笑いながら、ジェイリーと二人で歩く。


 馬車へと向かう道すがら、庭園の中にレイノルドが居たので、ジェイリーが気を利かせたのか、

「馬車の準備をしてきますね!」

 と走って行ってしまった。


「え、と?」


 そんな風にされても、レイと話す事なんてないけど……?


 訝しみながら通り過ぎようとした所で、

「アリアナ」

 と、声がかけられた。


「…………」


 レイノルドの前で、足を止める。

 別に、無視したいわけじゃない。


 けど。

 目だって合わないじゃない。


 レイ。


 レイ。

 こっちを向きなさい。


 ふいっと、レイノルドの目が、こちらを向いた。


 淡い色なのに、深い瞳。


「…………っ」


「今日、すごかったよ。おめでとう」


 レイノルドが、静かに言う。


 ひだまりが揺れる。

 レイノルドのプラチナブロンドが、目に眩しい。


「…………ありがとう」


 それだけを言うために呼び止めたの……?


「本当に強いね」

「もちろんよ。レイにも負けないわ」

「だろうね、おてんば姫の名前は、伊達じゃないからさ」

「も、もうっ……」


 そんな言い方……!


 レイノルドはやっぱりどこか意地悪で。


「ふふっ」


 けど、子供の頃みたいに笑った。


「レディに向かって何て事言うのよ」


 他に、誰もいない、よね。

 アリアナはキョロキョロと周りを見まわす。

 他の誰かじゃない。

 私に笑顔を見せてるんだ。


 私の前でだって、そんな顔出来るんじゃない。


 アリアナが、袖でゴシゴシと顔を擦る。


 出来るんじゃない。



◇◇◇◇◇



これはもう、どっちがツンデレなんですかね?

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