34 騎士の名家に生まれたからには(2)
しゃがみ込んだのは、バーガンディの方だった。
ロドリアスが、剣を突きつける。
バーガンディが持っていた練習用の剣は、軽い素材らしく、カラカラと音を立てて転がっていった。
「降参だ」
ロドリアスが、立ち上がったバーガンディと握手を交わす。
「やった!お兄様!!」
アリアナが、つい叫び声を上げる。
シシリーも、「ロドリアス様!」と嬉しそうだ。
隣で、
「兄さん……!」
と声が上がるのを聞いた。
お兄様が相手だったのが不運としか言えないわね。
こんな時は、一人にさせておくのがいいかもしれない。
あの、バーガンディのお兄さんとは、知り合いになっておきたかったけれど。
お兄様に負けたとはいえ、あそこまで戦える人なら、ハーレムにちょうどいいかもしれないし。
それも、東方を守るバーガンディ侯爵の息子だ。
せめてもう少し近くでみようかと、シシリーに声をかけようとした、その時だった。
「そんな……。兄さん……」
シャルルは落ち込み、しゃがみ込む。
ふとシャルルを見ると、チラリとこちらを見たシャルルと目が合った。
「?」
「アリアナ様、あなたも強いの?」
「え」
確かに、お兄様ほどは強くないけれど。
「どうかしら、ね」
サウスフィールド家の者としては、いつだって凛としていなくては。
「僕と勝負してよ」
「え?」
それは、予想外のセリフだった。
「僕も、羨ましくなっちゃったんだ。サウスフィールドの人間と戦いたい」
私と?
後ろで、シシリーが心配そうな顔をした。
アリアナは、ふむ、と頬に手を当て、少しだけ考える。
確かにこの子も、バーガンディ家の息子であるには違いない。
それで兄とお近づきになってもいいし、この弟の方をハーレムに誘ってもいいかもしれないわ。
「いいわよ」
にっこりと微笑んだ。
シャルルが、嬉しそうな顔をアリアナへ向けた。
「アリアナ……!?」
シシリーが心配そうな声を出す。
「ただし、私も何もなしに勝負するのはつらいわ。勝ったら、ご褒美、くれるのでしょう?」
甘えるような、それでいて威圧的な声。
シャルルは、
「いいよ」
と言わざるを得なかった。
その放課後。
人が居なくなるのを待って、二人は訓練場で向かい合った。
立会人にロドリアスとシャルルの兄、トロワ・バーガンディ。
それに、見物人が、ジェイリー、レイノルド、アルノー、シシリーの4人だ。
シシリーが、今日の帰宅は遅くなるとジェイリーに伝えに行ったところ、たまたまジェイリーがアルノーと立ち話をしていた。
そして伝わってしまったのがこのメンバーというわけだ。
剣術時の、パンツルックに着替えたアリアナとシャルルが向かい合う。
剣術服は、色分けはされていない。白い上着に黒いズボン。
いわゆる騎士のスタイルだ。
レイノルドが、アリアナの姿を見て、
「まったく、あのおてんば姫は仕方がないな」
とため息を吐いた。
「アリアナ様は麗しいよね」
アルノーがレイノルドに囁くと、レイノルドはアルノーを睨みつけた。
「じゃあいいか。二人とも」
「ええ」
「いいですよ」
アリアナとシャルルが向かい合う。
白い雲が流れる。
ロドリアスがスタートの合図を切った。
カン、と軽い音を立てて、剣と剣が交じり合う。
この決闘で使われるのは、高等科が使う軽い練習用の剣ではない。
それよりももっと軽い、中等科の剣術の授業で使う木刀だ。
折れやすい。けれど、扱いやすい。
「ぐ……っ」
真っ直ぐにシャルルが向かって来たものだから、つい真っ直ぐに受け止めてしまったけれど。
流石に力では勝てないか……。
シャルルの手に力が入った瞬間、アリアナはシャルルの剣を横に受け流した。
シャルルの剣は、その素直そうな性格と同じように真っ直ぐに向かってくる剣だった。
隙を狙わなくては。
相手が男だからとか、騎士になるとかならないとか、そんなことは関係ない。
ただ、負けられない……!
◇◇◇◇◇
アリアナは、なかなか負けず嫌いのようです。
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