33 騎士の名家に生まれたからには(1)

 その日、授業は思ったよりも早く終わった。


 いつもなら一人で帰ってしまうところだけれど。


「すぐに帰る?」

 シシリーに声を掛けられる。

「お兄様達が、今日は剣術大会に向けて演習をしてるはずなの。見に行こうかと思って」

「いいじゃない。私も行くわ」


「珍しいわね。シシリーが、こういうのについて来るなんて」

「まあね。2年生にはロドリアス様も居るし、みんな注目してるのよ。それに、」

 シシリーの肩から1本に流れる三つ編みがピョコンと跳ねた。

「アリアナを何処かの男の子にエスコートなんてさせたら、あなたの騎士様達が怖いもの」

 シシリーが、面白そうに笑う。


 高等科では、もうすぐ剣術大会がある。

 腕に覚えのある立候補者がこぞって優勝を目指すその大会は、春を代表するイベントだ。

 優勝者はかなり大々的に称えられ、国の新聞にも載る。


 今日はその高等科2年生の演習日なのだ。


「アリアナは、出るの?剣術大会」

 シシリーに聞かれ、アリアナは目をキラキラさせた。

「もちろんよ!私が誰だか知っていて?アリアナ・サウスフィールドよ!」


 男女混合、学年混合のこの大会。

 1年女子のアリアナには不利ではあるけれど、それだけやりがいがあるというものだ。

 騎士の家に生まれたからには、出ないという選択肢はない。


 訓練場は思った以上に応援する人でいっぱいだった。

 それも、半数以上は女の子だ。

 黄色い声が響く。

「すごいのね」

 アリアナが呟くと、

「すごいだろ?」

 と隣から声がした。

「?」

 素直にそちらの方へ向くと、中等科の制服の少年が現在戦っている二人をまっすぐに見ていた。

 背の高さからして、中等科の1年生だろうか。


 話しかけられたような気がしたのは、気のせいだったか、何かの偶然だったんだろうと思いかけたその時。

 少年が、こちらを向いた。

「あれ、兄さんなんだ」


「へぇ」

 訓練場の中心では、確かに歓声の中で、男子二人が戦っている。

 その一人が。

 お兄様……!


 二人のうちの一人は、確かに、アリアナの兄、ロドリアスだった。

 ということは、ロドリアスの相手をしているのがこの子のお兄さんだ。


「じゃあ、あなたのお兄さんの相手が、私のお兄様ね」

「え?でも相手の人は……」

 少年は、改めてアリアナとロドリアスを見比べた。

「アリアナ様!?」

「ええ。私はアリアナ・サウスフィールド。あなたは?」


「僕は、シャルル。シャルル・バーガンディだ」

「バーガンディ侯爵のご子息ね」

「ああ。知っていてくれて嬉しいよ」


 剣が交わる音が響く。

 せっかく知り合いになったところだけれど、残念ながら、ロドリアスが圧していた。


「うちの兄が、勝つわ」

「そんなの……!最後までわからないだろ……!」


 お兄様は実直な人だ。

 例え練習試合だとしても、手を抜いたりしないはず。

 そして、天才と言われたその腕に間違いはない。


 その時、

 ガキンッ!

 と、剣が飛んでいく音が響いた。



◇◇◇◇◇



新キャラ登場。

ショタ枠です。とはいえ、シャルルくん、1年生かと思われている小柄な子ですが、中等科3年生です。アリアナと一つしか違いません。

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