32 1週間(2)

 教室に入ると、シシリーのいる席まで歩いていく。


 アイリはちゃんとついてきてるわね。

 うんうん。


 これで、ヒロインに仕立てあげる準備も整ってきた。


「おはよう、シシリー」

「おはよう」


 シシリーは中等科からの友人だ。

 一緒にいると、ほわほわと柔らかい気持ちになる。

 性格はちょっと流行り物好きでうるさいけれど、口を開かなければちょっとした癒し系だ。


 シシリーの隣に座ると、アイリが子犬のような目を向けてくる。


 なかなか懐かれているんじゃないかしら。


 ふよふよと口元が緩むのを堪えながら、隣に座るように声をかけようとした、その時だった。


 スッ、と当たり前のように、アリアナの隣の席に手をかけた人間がいた。

「エリック」

 さっき廊下で女の子達に囲まれてわちゃわちゃしていたのに、もう教室へ来たのね。


 いつもなら、シシリー、アリアナ、エリックの順番で並んで座っている。

 確かに、エリックに譲るように言うのも感じが悪いか。

 けど、アイリは私が連れてきたわけだから、隣に座って欲しいし。


 ちょっと悩んでいるアリアナを尻目に、エリックはアイリにちょっと勝ち誇った意味のにっこりした笑顔を向けた。

 ついでに、こうやってアリアナのそばにも来られず、前の方で機嫌を損ねているレイノルドにも。


「どうぞ」

 とエリックがアイリに声をかける。

 隣へどうぞ、という意味だ。

 アリアナの隣のエリックの隣に。


 それでも、アイリはオロオロとしてしまう。

 アイリがついてきたのはアリアナなのだから。


 その二人の攻防を少し面白く眺めてしまったシシリーが、アイリに声をかけた。

「アイリさん、確か、実習でアリアナと一緒だったわよね。こっちへどうぞ。私も仲良くしたいわ」

 そこでやっと、アイリがほっとした顔で、アリアナとシシリーの間に入った。


 それを見たドラーグまでもが、いつもは一人、壁際に座っているくせに、アリアナの後ろの席へ座った。



「フンッ」

 とレイノルドが鼻から息を吐く。

 アルノーが、からかうように声をかけた。

「アリアナちゃんの恋人が増えて、ご立腹じゃないか」

「誰が恋人だよ」

「俺達も後ろに混ざる?」

「まさか」


 あそこに混じりたくないというのは本心だった。

 あの中の誰も、アリアナのたった一人に向けた気持ちを持っていないはずだ。


「ま、俺は近々あそこに座るけどな」

 アルノーがアリアナを盗み見る。

「破門されたいみたいだね」

 冷たく言い放つレイノルドの言葉も、アルノーにはなんてことないもののようだ。

「破門された方が、自由にアリアナと交流できていいかもな」



◇◇◇◇◇



徐々に形成されていくハーレムと、その日常なのでした。

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