30 魔術の授業(3)

 アルノーは、人懐っこい笑顔がよく似合う人だ。

 その笑顔に似合う、気さくな雰囲気で、アリアナとアイリの魔法陣を見てくれた。


「ああ、大丈夫だよ。むしろアリアナは、丁寧すぎるくらいだね」


 名前で呼び返されたことで、お互い名前で呼ぶのが定着した。

 変な事にならなくて一安心。

 どうやらアルノーは気も利くらしい。


「ありがとう」


「アイリもいいね」

 ……アイリさんともそれほど仲良くは見えなかったけれど。

 どさくさに紛れて名前呼びを受け入れさせている所を見ると、ただいい人というわけでもなさそうだ。

 なかなか気が強そうでいいじゃない?


 アリアナとアイリ、二人の円盤が完成したところで、それぞれの円盤を持ち、目で合図する。


「せーのっ」


 ふっと放り上げた円盤は、二つともそのまま宙に浮いた。


「わぁ……っ」


 まだ、半数ほどが魔法陣を書くのに苦戦している中、拍手が起こった。


 アイリが嬉しそうな顔で笑い、アリアナも笑顔を見せた。


 ヒロイン候補のアイリと、ハーレム候補のアルノーと、初めての接触にしては、なかなかいいイメージをつける事ができたんじゃないだろうか。


 今日の1日は上々〜〜〜〜♪


 人前で鼻歌を歌うわけにはいかないので、心の中で、鼻歌を歌った。



 結果的に、その日の帰り、アルノーは、レイノルドの馬車に乗せてはもらえなかった。


 ルーファウス家の紋が入った馬車を、アルノーが見送る。


 家の馬車に乗れなかったくらいで、生徒が困ることはない。

 家に帰る為、もしくは、アカデミー内の移動や、寮生の買い物などに使える馬車が、アカデミーにはかなりの数準備してある。

 アカデミー内には、そんな馬車の停留所が4ヶ所も設置してあるのだ。


「まーったく、うちのお坊ちゃんは」

 言いながら、アルノーはつい、ニヤつく。

「そんな風に拗ねてるだけじゃ、誰かに取られても、文句は言えないな」


 ルーファウス家に、レイノルドの弟子として居候しているアルノーだけれど、その日は、レイノルドの部屋にも入れては貰えなかった。


 あのいつだってツンとしたレイノルドの感情を動かすなら、あの女の子と関わるのが一番だ。

 アリアナの事となると、レイノルドだって年相応の人間味を見せる。

 まるで子供のような顔で、嫉妬したり、喚いたり、ポエムを読んでみたり。


 ただの公爵令嬢とは言い難い。

 ただの幼馴染みでは収まらない。

 ただ、好きだというだけであんな風になってしまうものなのか。


 この状況が面白すぎる。


 あの公爵令嬢、より一層、興味が湧いてしまうな。

 今のうちに、アリアナともっと仲良くなっておかなくては。

 レイノルドが、いよいよ我慢できなくなってしまう前に。



◇◇◇◇◇



着実にみんながハーレム入りしそうですね!賑やか!

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