28 魔術の授業(1)

 魔術の時間は、早速実技だった。


 といっても、魔術はこの国ではあまり一般的なものではない。

 誰にでも扱えるが、魔法陣を描こうとすると専門的に学ばなければならないため、実際に自分で魔法陣を書き込んだ事のある人間は少なかった。


 魔術棟の実技室。

 天井は高くとにかく広いその部屋で、クラスのみんなはそれぞれの席に着いた。


 机の上には、木製の丸い円盤のようなものがある。

 教本を見つつ、魔法陣を自分で描き、これを浮かべるのが今日の授業だ。


 アリアナは、滑り込むように、アイリの隣の席を陣取る。

 にっこり笑いかけると、おずおずとお辞儀を返された。


「では皆さん、教本を見ながらで良いので、魔法陣を書き込んでみてください」

「はい」


 皆、緊張の面持ち。

 中等科では、魔術理論の授業はあるものの、実技はなかったので、レイノルドやアルノーのような、もともと魔術を学んでいる者以外は、魔法陣を描くのは初めてだ。

 魔法陣さえ描くことが出来れば、誰しもが持つ魔力を少し注ぐだけで、後は勝手に空気中の魔力を利用して動作する。

 ただし、陣は、現在では使われていない文字を正確に描かなくてはならない。


「気楽に。とはいえ、気をつけてくださいね。じゃないとどぉーんと爆発しちゃうかもしれませんよ」

 魔女なんじゃないかと思えるような外見の教師は、言いながら、手をぱーっと広げてみせた。


 アイリが、「ふぇぇ」と声を出す。


「教え合うのもいいですよ。それでは、始めてください」


 オロオロと教本を眺めるアイリの隣にくっつくようにして、声をかけた。

「頑張りましょ」

 アリアナに気づいたアイリが、ほっと息を吐く感覚がした。

 優しく微笑みかける。


 よし!これで好印象を持たれたはず!


 とはいえ、アリアナが教えられるわけでもないので、二人で教本を眺める。

「確か、最初の方に空中浮遊の陣の解説があったわ。一章の前半あたり」

「えっと、あ。これですね」


 そこには空中に物を浮かせるための、小さな魔法陣が描いてあった。


「これ……、このまま描けばいいんでしょうか」

「えっと……」


 とりあえず写してみて、なんて思ったけれど、さっきの先生の「どぉーん」が頭をよぎった。


「何が書いてあるか解読してみましょうか」

 円状に書かれている文言の端を探し出し、言葉一つずつの意味を確認していく。

「ここまでが最初の決まり文句でしょう。次は……」

 ふっと二人で上を向いた。

 二人の視界に、装飾が施された白い天井が見える。

「…………」

「“上”ね」

 アリアナが言うと、アイリがうんうん、と大袈裟に頷いてくれる。


 そんな風にして一つずつ言葉の確認をしていると、後ろの方で、


「おぉ〜」


 という歓声が聞こえた。



◇◇◇◇◇



魔術の授業もありますが、別に魔法学校ではないです。

貴族をはじめとする若者のための高度な学問の場です。

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