18 帰宅
ライトは、自分の部屋に窓から忍び込んだ。
少し薄暗くしてある部屋へ入るなり、布張りのソファへうつ伏せで倒れ込む。
「…………」
「帰って来るなり、どうしたんだよ」
頭の上から声が降って来る。
そうだった。留守を頼んでいたんだ。
「うまくいかなかったのか?」
「最悪だよ」
「おかしいな……。今回の陣は、書き込みも結構自信あったんだけど」
カサカサと音がする。
どうやら、今回使った魔法陣の下絵を確認しているようだった。
「ああ、いや、コレはうまく行ったよ」
そう言いながら、スカーフを軽く握る。
「じゃあ、何が……」
言いかけて、「ハァ〜ン」と面白がる声が聞こえた。
「アリアナちゃんの事か」
「……ちゃん付けで呼ばないでくれる?」
「やっぱり、殿下と恋人同士だったんだろ?」
「違う」
「アリアナちゃんの片想いか……。悲しいな、お前も」
「……好きなヤツがいるわけでも、ない」
それにしては、覇気もなく、のそのそと起き上がった。
面白そうにニヤついているアルノーと目が合う。
「とはいえ、お前のものにはならないだろうし。時間の問題だな」
「……ハーレムを作るんだって」
「え?」
アルノーの表情が、ニヤついたまま固まった。
「この国の、有名人集めて、ハーレムを作るんだって」
「フハッ!!」
アルノーが盛大に吹き出した。
「なっ……なんでそんな事に……っ!ハハ……ッ!!」
ハーレムを作る話は、アルノーにとって涙が出るほど面白い話題だったようだ。
アルノーが、涙を拭いながら言う。
「良かったじゃないか。有名人って事は、お前も入ってるんだろ?告白も出来ないお前が、アリアナちゃんの愛情の何分の一かを享受できる機会なんて、他にないからな」
ソファに座り直したライトは、そのまま項垂れた。
「僕は、入ってないんだ」
首に巻いていたスカーフを、するりと外す。
真っ黒だった髪は、プラチナブロンドへ。
真っ黒な瞳は、ペリドットの色へ戻った。
「そんな、国宝レベルの顔してるレイノルド・ルーファウスがか?」
「あ〜」と言いながら、アルノーはどうフォローすべきか考える。
「まあ……、アリアナちゃんの今の生活に、お前は存在してないだろうしな。告白出来ないどころか、アピールも優しくも出来てないもんな」
「その代わり……お前が入ってる」
「へ?」
レイノルドが顔を上げると、アルノーは満更でもない顔をしていた。
「アリアナちゃんのハーレムか。……アリだな」
「は!?ハーレムなんて……!」
「俺には手が届くはずがない公爵令嬢のハーレムだよ?アリアナちゃんの愛情の何分の一か貰えるんなら、俺には靴だって舐める覚悟がある!」
「お前……」
「弟子兼親友に殺意抱くなよ」
ムムム、とレイノルドがアルノーを睨みつける。
こんな時は、さっさと話題を変えてしまった方がいい事を、アルノーは知っている。
「本当に、お前だってわからなかったのか?」
「ああ、本当に。別人に見えるようだ」
「流石、レイノルドの描いた陣だな。俺から見たら、ただお前が黒くなっただけなのにな」
この世界では、魔術は魔法陣という形で発動させるのが一般的だ。
物に陣を描くと、その陣に書き込んだ通りに動く。
今回、この二人がスカーフに書き込んだのは、髪と瞳の色を黒く染めること、それに、これを着けているのが誰だか知らない場合その人だと認識できないことだ。
アルノーはレイノルドが着けている事を知っているので、これを着けているところを見ても髪と瞳の色が変わったレイノルドだとしか見えない。
誰か、レイノルドの知り合いで実験する必要があったのだ。
レイノルドは、頭を抱えるように、もう一度項垂れた。
「本当に……ちゃん付けで呼ばないでくれよ……」
そう、これは、うっかりハーレム作りに熱意を注いでしまう公爵令嬢と、告白どころかアピールも優しくも出来ない幼馴染みの公爵令息の、恋物語なのだ。
◇◇◇◇◇
そんなわけで、ここまでをプロローグとしたいと思います。
二人のラブコメ、楽しんでいってね!
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