5 問題があるとすれば
アリアナは頭を抱えた。
問題があるとすれば、私に婚約者が居ない事だ。
そう、実のところ、アリアナには婚約者など居ないのである。
15歳の公爵令嬢に婚約者がいないわけだけれども、別にモテないわけではない。
二大公爵家は、それぞれ何代かに一度、王家に嫁ぐ事になっている。
現在、アリアナと同い年の王子もいるけれど、この代ではどちらも嫁ぐ予定はない。
家は兄が継ぐ予定な事もあり、結婚を急ぐ必要はないのだ。
この国の貴族の婚約は、大体期間が決まっている。
15歳から18歳までの3年間。
アカデミーの高等科の期間だ。
アカデミーは、国中の貴族、はたまた平民の中でも金持ちの子供達が一堂に会し、学ぶ場。
大体の貴族は、アカデミーに居る間に、貴族や平民の金持ちが集う場で、婚約者を決めてしまう。
王家や公爵家の子供達までもが対等に学校に通える期間に、お相手と対等に恋人同士になり、関係を作ってしまおうというわけだ。
万が一、王家や公爵家とお近づきになれれば、と考えている貴族達も多い事だろう。
王家や公爵家のような高貴な人達は、家で学ぶ事も多い為、高等科から入って来る事も多い。
高等科を出てしまえば、成人扱いされ、社会に出て行く。
この高等科の3年間が勝負なのだ。
アリアナは中等科からアカデミーに在籍している。
これは、人脈を重視する方針だから、ということもあるけれど、高等科への入学時に求婚する男どもの山を作らない為でもあった。
恋愛がどうこうとなる前に、友人となっておけば、おかしな求婚も減るはずだ。
アリアナはやっと15歳。
来週の花祭りが終われば、高等科入学だ。
公爵令嬢ではあるけれど、恋愛結婚を推奨する両親ということもあり、アリアナには今のところ特に相手になりそうな人は居ない。
そんなわけで、多くの友人達同様、婚約どころか、婚約者候補もいない。
恋人どころか、好きな人さえも。
婚約者の影も形もない状態で、婚約破棄は流石に無理があった。
「う〜ん……」
と頭を悩ませる。
お相手がいそうな男性と婚約する?
それがヒロインと男性の恋を盛り上げる為の役割になるなら、やぶさかじゃあないけれど。
公爵家と婚約などしてしまったら、その男性の家も断りづらいだろう。
余程の事がないと、相手が例え王家であっても、公爵家を敵に回そうなんてしないはずだ。
世間的にも、私の評判はいい……。
それで万が一結婚、なんてことになったら、ヒロインとヒーローの恋を盛り上げる“悪役”どころじゃなくなってしまう。
それに、婚約破棄もされないままハーレム作りなんてするのは、ただの男好きだ。
「それはいけないわ」
アリアナは真面目な顔になる。
残念だけれど、婚約破棄のくだりは諦めるしかないかもしれないわね。
けど、悪役令嬢だけなら、なれるはず。
ハーレム対象の男性が別の子と恋に落ちるかもしれないし。
そうすれば、ちょっと意地悪して盛り上げ役になればいいんだもの。
うん。
アリアナは大きく頷くと、満足そうにニッコリと笑った。
◇◇◇◇◇
アリアナの目標が決まったところで、物語は徐々に動き出します。
ヒーローが出てくるのも、そう遠くないはず。
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