4 公爵令嬢は夢を見る(2)
部屋の外にジェイリーが居るにも関わらず、サナは部屋から離れる事もなく、甲斐甲斐しくお世話してくれる。
気づけば入浴までさせられ、食事もいちいち食べさせられて、やっと一人になったのは、すでに星が輝く夜の事だ。
ノートを取り出す。
ハーレムイラストはなかなかの出来栄え。なんだけれど。
これ……、何かを思い出しそう。
何を……。
と思ったところで、脳裏に漫画の表紙が浮かんだ。
そうよ!
これ……左門が好きだった漫画に似てるんだ。
左門は、先輩からもらった、『女の子と盛り上がる為の58本』なんていうリストを持っていた。
それは、自己啓発本やトーク術のメモ、はたまた女の子の間で流行っている映画や漫画なんかのリストだ。
その中で、左門が気に入って読んでいた漫画が、ちょうど悪役令嬢ものだった。
無実の罪で婚約破棄された貴族令嬢が、その場でどこかの騎士に求婚され、その後何人もの男性にめっちゃモテるのだ。
それも全員イケメンだ。
「…………」
ふ〜む、とアリアナは考える顔をした。
公爵令嬢に生まれた宿命なのではないだろうか。
アリアナは鏡を覗く。
公爵令嬢にして、なかなかの美人。
「これは、悪役令嬢を目指すしかないわね」
ニヤリ、とする。
誰もいない時にだけできる顔だ。
一見、怪しいけれど、顔の体操だと思えば、百面相もやっておくに限る。
そう……。
婚約者様に本当に好きな人ができた時に、無実の罪で婚約破棄されてしまうの!
ううん……ちょっと待って。
無実の罪を作り出すのと、実際意地悪をするのとどちらがいいかしら。
簡単なのは噂を撒く事だけれど……、婚約者様も恋のお相手様も、されてもいない事で噂の的にされて、その本当の恋の邪魔になってしまうのは得策じゃないわ。
嫉妬に駆られて意地悪しちゃうのは正直魅力だし。
けど……、本当に意地悪をしてしまった悪役令嬢に救いなんてあるかしら。
嫌な意地悪はしたくないし……。
婚約者様と恋のお相手様の気持ちが盛り上がる程度の意地悪……。
考えながら、アリアナは羽ペンの羽で鼻をくしゅくしゅと触った。
……この世の何処かに、左門という男が居た証になるのだとすれば、これくらいハードルは高い方がいいのかもしれない。
左門は、自分の事を、何も成せない人間だと思っていた。
そんな思い込みが負のスパイラルになり、肝心な所でチャンスを掴めない。そんな男だった。
今更かもしれないけれど、言ってやりたいのだ。
頑張って生きたねって。
あなたの魂がハーレムを作ったら、こんな風になったよって。
そんな突拍子もない夢を、叶える事が出来たよって。
ただ、問題があるとすれば……。
◇◇◇◇◇
悪役令嬢になれるといいね!!
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