3 公爵令嬢は夢を見る(1)

 そこで、主治医が入ってきたので、思考は一旦中断された。


「おはよう、オリバー」

「おはようございます、お嬢様」


 長い髪をきっちり纏めたオリバーと呼ばれた女性は、公爵家所属、アリアナとその弟妹の健康管理を任されているお医者様だ。


「ふ〜む」

 なんて言いながら、基本の検査を進めていく。


 いつもより時間をかけて検査した後、オリバーは、

「問題ありませんね」

 と、いつものクールな調子で言った。


「けど、お嬢様、あまり危険な事はなさらないでくださいね」

 ピシっとオリバーが人差し指を立てた。

「もし、危険な事があれば、人を呼ぶ。ジェイリーだっているはずでしょう」


 クドクドと始まったお説教は、1時間にもわたった。

 オリバーは心配性なのだ。


 その後、サナに甲斐甲斐しくお世話されながらベッドでおかゆ的なものを食べ、やっと一人になれた時には、午後になっていた。


 ぐにーっと伸びをする。


 1週間も寝ていたなら仕方ない。


 ゆっくりとベッドから、足を下ろす。

 一度ぐらついたものの、デスクまで歩くのは困難ではなかった。


「さてと」


 サナはすぐに戻って来るだろうから、今のうちにノートを作っておこう。


 長い長い左門の夢を見て、身についた事もある。

 左門はメモを取る事を大事にしていた。

 お客さんの事、トークの事、本や映画の感想……。


 私も、見習わないと。


 デスクの引き出しから新しいノートを取り出し、まず、左門の名前を書き留める。

 思いの外、日本語はすんなりと書く事ができた。


 不思議だけれど、なんだか書き慣れた文字。


 う〜ん。


 やっぱり私は、女の子に囲まれても嬉しくないみたい。


 となると。


 アリアナは想像する。


 イケメンに囲まれる自分の姿を。


 この家の財力を使った特注の真っ赤なソファに座る私。

 そして、私を囲うように座り、甘く見つめるお兄さん達!


 これだ!


 なかなかいいじゃない?


 うんうん。

 アリアナは、満足げに頷いた。


 公爵令嬢というこの地位を使って、男を侍らせる!

 逆ハーレムを目指しましょう。


 アリアナは、自分が男に囲まれているイラストを描いていった。

 淑女教育の一環である絵画の力を、夢で見たイラスト風に描いていく。


「ふんふ〜〜〜〜ん♪」

 鼻歌を歌っていると、声は次第に大きくなった。

「生きるのに大事な事が〜♪あるとすれば〜〜〜♪それは…………愛〜〜〜〜〜〜〜〜!!」


 コンコン。


「はい〜〜〜〜♪」


 サナが笑いながら入って来る。

「すっかり元通りのようですね。ジェイリーまで笑ってましたよ」


 くるり、とアリアナは振り向いた。

「あら、ジェイリー、外に居るの?」

「ええ、病み上がりなので、ジェイリーをずっと付けてあります。何かあれば、声をかけてくださいね」


 そこで、扉からジェイリーが顔を出した。


 護衛騎士のジェイリーは、まだ10代後半だというのに、公爵家の長女の護衛騎士を任されるほど、有能だった。

 背は高いが、まだ少年と言っても差し支えない程度にあどけなさが残る。

 外出時や客人が来る時などにアリアナに付いていてくれる、専属の護衛騎士だ。


 部屋の外から手を振ってくれたので、アリアナも手を振り返した。



◇◇◇◇◇



アリアナと左門、人格は別ですが、根底は同じです。

ハーレムに乗り気なのも、癖なども似ています。

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