第2話 1回目のロード

【召喚1日目18時 ロード回数1 縮んだ寿命15分】


「オボロ様、落ち着かないご様子ですが、御気分が優れないのでしょうか?」


 気が付いたときには、俺はシアナーラ女王に心配顔で見つめられていた。

 俺は慌てて周囲を見渡す。


 目の前にシアナーラ女王。そして、少し離れて周囲を取り囲む軍服風の衣装の騎士たち。その中には、ローランド騎士団長の姿もあった。

 騎士団長の顔を見るだけで冷や汗が出てくる。

 だが、背中の焼けるような痛みはない。脳天をかち割られているようなこともない。


 どうやら、俺の特殊能力による『ロード』は間に合ったようだ。

 セーブしたのは、確か、今はシアナーラ女王に召喚された間もない頃のはず。


「……血の気のひいたようなお顔ですが、大丈夫ですか?」


 ガチで殺されかけたんだ。血の気も引くというものだ。

 って、女王様、そんなふうに俺の顔を覗き込まないで!

 か、顔が近いですって!


「あっ、少し顔色が戻りましたね!」


 シアナーラ女王が一つ手を叩いて顔に笑顔の花を咲かせる。

 なんというか……可愛すぎますって!


「御自分の特殊能力については、わかりましたか?」


 そうだ! 確かこうやって特殊能力について女王に聞かれて、自分の『セーブ&ロード能力』を理解して、そこでセーブしたんだった。

 しかし、ここからやり直すにしても、どうすれば騎士団長に殺されずに済むんだ?


 いっそのこと元の世界に戻してもらうように頼んでみるか?


 ……だめだ、もどった次の瞬間に死ぬだけだ。


 なら、ここからもう全力で逃げだすか?


 ……それで、どうなる?

 異世界でどうやって生きていく?

 それ以前に、すぐに捕まって、逃亡罪とかなんとか言われて、また斬られるような気がする。


 そもそも、どうして俺はいきなり騎士団長に斬られたんだ?

 あいつ、何か言ってたよな……


 たしか、「『セーブ&ロード能力』だったか? その力は危険すぎる」とか言ってたよな。

 誰に対して何がどう危険なのかはまったくわからないが、この力のせいで殺されかけたのは間違いないか。

 ということは、ここで馬鹿正直に自分の能力を答えた時点で、死亡フラグが立ってしまったということだろうか。

 だったら、騎士団長も聞いているこの状況で、『セーブ&ロード能力』のことは答えられないことになる。

 とりあえず、なにかほかの能力だと言って誤魔化すしかないか……。

 けど、なんて言えばいいんだ?

 実際に持ってない能力を言っても、それを使ってみろと言われたらすぐ嘘がバレてしまうし……


 考えろ、考えろ!


 …………


 そうだ、こういうのはどうだろうか……


「俺の特殊能力は、どうやら『未来予知』みたいです」


 『セーブ&ロード能力』を使ってロードすれば、経験したことについては未来に起こることがわかる。これを利用すれば、未来予知と同じことができるはずだ。


「『未来予知』ですか?」


 シアナーラ女王が可愛い顔で首をかしげる。


「はい。でも、どんな未来でも予知できるわけではなくて……いつどんな未来が見えるのか自分でもわからないという、使い勝手のよくない能力みたいです」


 俺が把握できる未来は、ロード前に経験したことだけ。なんでもかんでも未来予知してくれと頼まれても答えられるわけがないから、ここはあんまり都合よく使えないということにしておかないとな。

 だけど、これだと能力が微妙すぎるか? 役立たずと思われて、いらない子扱いされるのもまずい気がするんだが、どうだ?


「なるほど。私の特殊能力も満月の日にしか使えませんし、特殊能力と言ってもなかなか思い通りにはいきませんね」


「ええ、そうですよね」


 よかった。なんとか女王には納得してもらえたか?


「ちなみに、何か未来予知できたことありますか?」


 やべぇ。そう来たか。

 この後、客室に移動した後すぐ斬られたから、ほとんど情報がないぞ。

 ローランド騎士団長に斬られたとか言っても多分信じてくれないよな……。

 ここに来たばかりだからまだ何も予知できいないと言うか?

 でも、それだったらなぜ能力が未来予知だとわかったのか、とか言われそうな気もするし……


 あ、そうだ!


「俺が部屋で休んでいるところが見えました。この城の客室を用意いただいているんですね。高級そうなベッドも見えました。ふかふかで気持ちよさそうです」


「はい、その通りです! 本当に未来予知の特殊能力をお持ちのようですね! その力をぜひ私たちのためにお使いいただけませんか?」


 ロード前に俺が見ることができたのは、ここでのやりとりと客室に連れていかれるところまで。だったらと、今の俺が知ることのできない客室の話をしてみたが、どうやらシアナーラ女王は俺の話を信じてくれたようだ。正直、助かった。


「あのままだったら俺は死んでいたでしょう。助けてもらった命ですから、できるだけのことはするつもりです」


「ありがとうございます! それでは、とりあえず、今晩はゆっくりお休みください。侍女を呼んで、お部屋まで案内させます」


 シアナーラ女王が近くの軍服の男に、侍女を呼びに行くよう声をかけたところで、別の軍服の男が前に進み出た。その顔には見覚えがある。騎士団長のローランドだ。


「シアナーラ様、私が彼を案内しましょう」


 この流れはまずい!

 前回と同じじゃないか!

 能力を変えてみたけど、やっぱりこいつ、俺を殺す気なのか!?


「あなたにそんなことをさせるだなんて」


 シアナーラ女王は騎士団長の申し出に困った様子だ。

 前回はローランド騎士団長の言葉にこのまま押し切られてしまったが、今回はそうはさせないぞ!

 俺も女王に加勢して、騎士団長に案内されるのはなんとしても阻止して見せる!


「そうですよ! 騎士団長様に案内されるなんて恐れ多いです! こんなことで騎士団長のお手をわずらわせては、俺が申し訳なく感じて気が重くなってしまいますよ」


 ここまで言えばさすがに引くだろう!

 これでも一緒に来るって言うのなら殺す気まんまんってことだから、せめてほかの人にも一緒に来てもらうように頼むくらいしか打てる手がないぞ!


 だが、俺の思いに反して、騎士団長だけでなく、女王様まで不思議そうな顔で俺を見てくる。

 ん? なんなんだ、この反応は?


「オボロ様、どうして彼が騎士団長だとご存知なのですか?」


 あ――


 しまったぁぁぁぁ!


 そうだ、今回はまだ騎士団長とは初対面だったんだ!

 俺のバカ!

 てか、難しいぞ、このセーブ&ロード能力!

 やり直したときに自分と相手の関係性もリセットされるわけだから、ロードするたびにいちいち整理し直さないと、ぼろを出すことになってしまう。


 けど、それよりも、今は俺の失言をなんとかごまかさないと!

 未来予知の能力がウソで、本当は『セーブ&ロード能力』だってバレるのが一番まずい。そうならないようになんとかしないと。


「客室に案内してくれた彼が、騎士団長のローランド・スターソードだと名乗る未来が見えたんです!」


 窮地に追い込まれた俺は咄嗟にそう説明した。

 これなら未来予知能力の信憑性を高めることはあっても、疑われることはあるまい。

 実際に騎士団長から名前を聞かされたのは、客室ではなく、この広間だったけど、名乗りを受けたこと自体は本当のことだ。ウソの中に、適度な真実を込めておくのは、ウソのテクニックだと聞いたことがある。そもそも未来予知の内容なんて、俺しか知ることができないんだから、見破りようがないはずだ。


「私の名前までご存知とは。……なるほど、オボロ殿の未来予知は、映像だけでなく、声まで聞こえるのですね」


 あ――。

 そこまで考えてなかった。

 だけど、こうなったら仕方ない。騎士団長の指摘通り、そういうことにしておくしかない。


「ええ、そうなんですよ……俺も初めての能力だったので、うろ覚えのとこもありますが……」


「素晴らしいですわ。その力で、我が国の危機を事前に予知していただければ、とても心強いです!」


 女王様、そんな輝いた笑顔を向けられても困るのですが……。

 実際に俺が知っているのはロード前に経験したことだけなので、今の俺の手持ちの未来情報はゼロですよ。

 唯一あるのが、騎士団長に殺されるってことだけなんですよ!


「自分で自由に未来予知できるわけではあまりせんので……。いつどんな未来が見えるのか自分でもわからないから、あまり期待しないでくださいね……」


 保険をかけるわけじゃないけど、とりあえず、こうでも言って期待のハードルを下げておかないと、俺がいたたまれなくなる。


「はい、それはわかっていますよ。ですが、些細なことでも、なにか未来が見えたらまた教えていただければ助かります」


「はい、わかりました」


「しかし、オボロ様の未来予知によると、騎士団長が客室まで案内したのですね。そうなると、ここは申し出通り、騎士団長にオボロ様を案内してもらうのがよさそうですね」


 あ――


 俺はバカだ。


 未来予知で騎士団長に案内されたなんて言ったらこうなるに決まってるじゃないか! 失言を誤魔化すために、肝心の騎士団長の同行阻止に失敗してたら意味がないぞ。


 だが、こうなってしまっては、もう俺にはどうすることもできなかった。

 今更未来予知が間違いだったなんて、俺の信用を落とすようなことを言えるわけがない。


 かくして、俺はついさっき斬り殺されかけた相手と、また客室に行くことになってしまった。

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