セーブ&ロード能力で異世界攻略 ~異世界召喚された俺は失敗してもセーブ箇所からやり直して必ず成功してみせる! えっ? セーブ箇所は1箇所で、ロードすると寿命が縮んじゃうの?~
カティア
第1話 セーブ&ロード能力
死んだ。
まじ死んだ。
塾に行く途中、横断歩道を渡っていた俺に猛スピードのトラックが突っ込んできた。
気づいた時にはもう反応してどうにかなる状況ではなかった。
そう思って目を閉じた次の瞬間、俺の身体は不思議な浮遊感に包まれていた。
再び目を開いた時、俺は横断歩道ではなく、石造りの部屋の中にいた。
部屋の中央には絨毯が敷かれれ、俺はその真ん中に立っている。
そして、俺を中心に2メートルほどの距離を開けて、周りを10人ほどの白い軍服を着た男たちに取り囲まれている。いや、男だけかと思ったが、中には下がスカート形状の軍服を着た女性もいる。
だが、それより目を引くのは、目の前に立っている、煌びやかな赤いドレスを来た綺麗な女性だった。
こんな可愛い子はクラスにもいない。自分とは住む世界が違うと、見ただけで本能的にそう感じてしまうようなその子に、ほかの色々ことを忘れて、俺は見入ってしまう。
「はじめまして、異世界のかた」
異世界のかた? それって俺のこと?
しかし、異世界って……
いや、確かに異世界なのかもしれない。
目の前の女の子、可愛さでも目を惹くのだが、その髪と瞳はどちらも瑠璃色をしている。
染めていたりカラーコンタクトをしているのでもなければ、こんな髪色、異世界でもなければありえないよな。
「私はシアナーラ・マルキシア。このマルキシア王国の女王です」
はい、来ました女王様!
異世界っぽい!
年齢は高校生の俺とあまり変わらない感じだけど、王女じゃなくて女王なんだな。
「お、俺は――いや、私は
「オボロ様、突然のことで混乱されているのも当然のことと思います。まずは、今の状況を説明させていたただきます」
いまだに事態が飲み込めてない俺に、シアナーラ女王は一から説明をしてくれた。
彼女の説明によると――
ここは今まで俺がいた世界とは別の世界。国が違うとか、星が違うとか、そういうレベルの話ではなく、元の世界とは、時間も空間も断絶された、いわゆる異世界。
この世界には特殊能力という不思議な力を使える人間がいて、特殊能力者は、どの国にとっても貴重な存在になっている。シアナーラ女王もその特殊能力者であり、彼女の能力は、満月の夜に異世界召喚を行なえること。
その召喚の対象になるのは、ほかの世界で死の窮地にある人。そのまま元の世界にいたら死んでいたような人が選ばれる。そして、そうやって召喚された人は、死を間近に感じたことにより、眠っていた力が解放され、この世界では特殊能力に目覚めるらしい。
つまり、今の俺は、死にかけていたところをシアナーラ女王の召喚によって救われ、特殊能力に目覚めているはず――ということだ。
「オボロ様、御自分の特殊能力がわかりますか?」
そんなこと急に言われても困る。
今彼女の話を聞いたばかりで、特殊能力なんて実感もなにも――!?
ん!? なんだ!? この頭の中から浮かんでくる情報の洪水は……
色も形もない光が、頭の中を駆け巡る……
セーブ&ロード能力?
これが俺の特殊能力なのか?
まるで以前から知っていたように、『セーブ&ロード能力』に関する知識が浮かんでくる。
どうやら、セーブしたところから、時間も場所も戻してやり直せる能力みたいだ。まるでゲームだな。
でも、冷静に考えて、これって失敗しても何回もやり直せる超優秀な能力じゃないか?
今までツイてなかった俺だけど、もしかして、激レアの当たり能力引いたんじゃね?
とにかくセーブしまくって、何かあったらやり直しまくれば最適の方法だけを選んでいけるじゃないか!
……あ、セーブ箇所は1箇所だけなの?
ちっ! 複数セーブできたら色々試せたのになぁ。セーブすると毎回上書きされるてしまうのか! ……そうなるとセーブポイントは慎重に選ばないといけないわけだな。
まぁ、でも、できるだけ早い段階でセーブしておいて、なにか失敗したらそこからやり直すようにしておけばそれほど問題もないか……。
ん!? デメリットもあるのか……。
なになに……。ロードした時に、巻き戻った時間分、寿命が縮む、と。
なるほどなるほど……
…………
はあぁぁぁぁぁぁ!?
ちょっと待てぇぇぇぇ!
寿命が縮むってなに!?
10年経ったあとに、何か失敗がわかって、やり直したら10年寿命が縮んだところからやり直すの!?
それってマジやばくね!?
下手すりゃ、ロードした時点で寿命がなくて死ぬ可能性あるってことか!?
やばい……。これじゃあ簡単にロードできないじゃないか!
そ一気の巻き戻りは寿命的にリスク高すぎる!
こまめにセーブしておかないと……。
とりあえず、1回セーブしておこう。――セーブっと!
俺は生まれて初めて特殊能力を行使した。
頭の中で念じただけだが、自分の能力だからか、確かにこれだけでセーブできたことが実感としてわかる。
しかし、ロードで寿命が縮むのはマジやばい。
特殊能力というより、もはや呪いのような気さえしてくる。
セーブはしたけど、できたらこの能力は使わないですませたい。
「オボロ様、落ち着かないご様子ですが、御気分が優れないのでしょうか?」
情けないことに、寿命の件で狼狽していたようだ。シアナーラ女王に心配されてしまった。
「いえ、いろいろと突然のことで混乱しただけです。……えっと、俺の特殊能力ですが、どうやら、『セーブ&ロード能力』と言って、一度セーブすると、なにかあったときに、時間も場所もそのセーブした時点に戻ってやり直せる能力みたいです」
「それは、つまり、時間を巻き戻せる特殊能力ということでしょうか?」
「正確には、時間が戻るのではなく、自分のほうが戻るわけですが……。でも、そうですね、実質的には同じことなんでしょうかね」
「それは素晴らしい力ですね! あなたのようなかたを召喚できたのは僥倖です! ぜひ我が国に力を貸してください!」
シアナーラ女王は俺の手を掴むとぎゅっと握ってきた。
こんな綺麗で高貴な人にそんなことされたら、誰だって緊張もするし、興奮もする!
「は、はい! こちらこそよろしくお願いします!」
俺がテンパりながら、そんな答えを返してしまったのも当然なことだと思わないか?
「とりあえず、今晩はゆっくりお休みください。侍女を呼んで、お部屋まで案内させます」
シアナーラ女王が近くの軍服の男に、侍女を呼びに行くよう声をかけたところで、別の軍服の男が前に進み出てきた。
年齢は30代半ばといったところか。渋さがにじみ出るようなイケメンだった。俺もこんな男になれたらいいなと思うが、絶対になれないとわかるのが悲しい。
「シアナーラ様、私が彼を案内しましょう」
「ローランド騎士団長、あなたのようなかたにそんなことをさせるなんて……」
「いえ、特殊能力を持つかたはどの国にとっても貴重な人材です。他国の間者がどこかにまぎれているかもしれません。私が責任を持って部屋までお連れいたします」
「そうですか、あなたにお任せするのなら私も安心です。それでは、よろしくお願いします」
「はっ!」
騎士団長は女王に敬礼すると、俺の前へと進み出てきた。
「私は騎士団長のローランド・スターソードだ。よろしく、オボロ君」
さわやかにそう言いながら騎士団長が右手を差し出してきた。
もう、なんだよ、このイケメンムーブは!
だいたい、名前からしてイケてる!
ローランド・スターソード!
顔だけじゃなく名前も格好いいじゃないか!
星の剣だよ、星の剣!
しかも騎士団長!
男なのに惚れそうになる!
「……よろしくお願いします」
こんなこんな人に話しかけてられると、緊張してしまう。
俺が恐る恐る右手を差し出すと、がっちり掴まれて固い握手を交わすことになった。
ああ、いつか俺のほうからこんな握手ができる男になりたい……
「君のための客室が用意してあるからそちらに案内するよ。ついてきてくれたまえ」
「あ、はい」
握手を解くと、騎士団長は颯爽と歩き出した。
俺は慌ててそれに付いていく。
◇ ◇ ◇ ◇
召喚された広間からどこをどう通ってここまできたのかもう覚えていないが、俺は豪奢な部屋に案内された。
うん、元の世界の自分の部屋より確実に広い。
調度品も、そのあたりの価値観がわからない俺から見ても立派なものばかりだ。
ベッドも、どこの高級ホテルのベッドですか?と言いたくなるようなものだった。今から眠るのがちょっと楽しみになってしまう。
俺はベッドのふかふか具合を確かめたくなって、足を踏み出したんだが――絨毯のふかふか具合に慣れてなくて、足を取られ前のほうにたたらを踏んでしまう。
「――ツゥ!?」
背中に熱い痛みが走った。
なんだ!?
慌てて後ろを見たら――そこには抜き身の剣を構えた騎士団長の姿があった!
騎士団長の構えた剣の刃には生々しい色をした血が滴っている。
あれって――
俺の血だ!
俺はいまさらながらに自分が背中から斬られたことを理解する。
身体に力が入らない。
これ、思った以上に深く斬られているんじゃないのか!?
訳がわからない。
俺の力が必要だから召喚したんじゃないのか!?
殺すつもりなら召喚しなきゃよかっただろうが!
「私の一撃を躱すとは……いや、偶然か」
騎士団長の冷たい呟き。
声も目つきもさっきまでとは違う。
ガチの殺意にあてられ、俺の身体はただ震えてしまう。
「な、なんで……」
そう声を絞り出すのが精一杯だった。
「『セーブ&ロード能力』だったか? その力は危険すぎる」
足音も立てずに距離を詰めてきた騎士団長が剣を大きく振りかぶる。
マジで死ぬ。
剣に関しては素人の俺でもわかる。
たとえ万全の状態であったとしても、この人の剣の間合いから逃げるのが不可能だっていうことが。
俺は人生で二度目の死を実感するしかなかった。
――いや、ちょっと待て!
何か大事なことを忘れてないか!?
俺にはこの窮地を脱する方法があったような……
俺の血で染まっていた騎士団長の剣が、俺の脳天目掛けて振り下ろされる――
ロード!
――俺は光の奔流に包まれた。
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