第13話 終の極光と湯浅②

 ドラゴン討伐後は大騒ぎだった。

 いくら魔法に疎い日本といえども、さすがに異世界で禁忌とされている死霊術を知っている冒険者ギルドの職員ぐらいはいる。

 なんとか誤魔化し、後片付けや処理に奔走し、依頼主と話をつけた頃には数日が過ぎていた。


 家に着いたのは、深夜過ぎ。

 冒険者ではよくある事だ。


 なんだか精神的に疲れたから、風呂にだけ入ってベッドに飛び込む。

 眠らなくてもいい体質になったが、今日はなんとなく寝る事にした。


 スマホから鳴る着信音に目を覚ます。

 画面を確認すれば、元パーティーのリーダー遠藤昴からメッセージが届いていた。


「なんだ、今更……」


 追放されてから今日になるまで、およそ一週間弱。連絡どころか挨拶の一つもなかった。

 悩んだ末に、メッセージの内容を確認する。


『冒険者ギルドの広報に湯浅の活躍が載っていた。パーティーを追放されてからやる気を出すなんて、実に湯浅らしいな。俺に対するあてつけか?』


 画面をびっちりと埋める憂鬱な単語の数々。

 確認しなきゃよかった。

 既読をつけてしまった以上、返事はしないといけない。


 冒険者ギルドの広報を覗いてみる。

 どうやらドラゴン討伐が取り上げられたようだ。インタビューに応じるエルドラに肩を組まれた私の写真が見出しに使われている。

 これを見て、遠藤は連絡してきたようだ。


『遠藤さんお久しぶりです。冒険者ギルドの広報を先ほど確認しました。同行していた冒険者がインタビューを受けていたのは知っておりましたが、自分の名前が出るとは把握しておりませんでした。何か誤解があるようなので、訂正させていただきます。今回の件は特殊なケースであり、ドラゴン討伐に大きく貢献したのはエルドラという魔術師です。私は手助けをしただけに過ぎません。それと、遠藤さんに対してあてつけなどの悪意は持っていません』


 長文には長文で返す。

 そして、ミュート。

 これで解決だ。


 しかし、あてつけか。

 私が遠藤にあてつけする動機はないし、むしろ活躍して欲しいと願っているのだが、直接的に伝えたとしても余計に拗れそうだ。

 なんで私に対してこんなにも当たりが強いのだろうか。素顔も見せず無口で何を考えてるか分からないからか。そりゃ不気味ですわ。

 顔も見せてないのに懐いてくるエルドラがおかしいんだ。


 ミュートしたばかりだが、トーク画面での一覧には遠藤からの新着が続々と届いている。

 私に対して思う所があるのだろう。


『ドラゴンを討伐した程度で良い気になるな』


 そのメッセージを最後に、私はスマホをベッドに放り投げた。


 ドラゴン討伐の貢献者は、エルドラだ。

 私一人では追い詰める事すら出来なかった。

 そんな事、部外者に言われるまでもなく分かっている。


『俺たちならできる』


 肩を組んできた感触と、エルドラの言葉を思い出す。

 ほんの少しぐらいは、思い上がってもいいだろうか。

 討伐の手伝いぐらいは出来た、と。


 なんて物思いに耽っていたら、部屋の扉がコンコンと叩かれた。

 郵便や宅配ならまずインターホンを鳴らすはずだ。扉の覗き窓を見てみる。


 長い金髪と黒のローブ。

 恐ろしいほどに整った顔をしたエルドラが、部屋の前に立っていた。


「おい、ユアサ。俺だ。エルドラだ。貴様、今日は暇だろう。俺に付き合え」


 私は無言で鎧に着替えて部屋の扉を開ける。

 ひとまず立ち話もなんだから、と中へ招き入れる事にした。


「意外と物が多いな、貴様。この部屋には長く住んでるのか?」


 部屋を覗いて一言。

 エルドラは器用に靴の裏に洗浄魔法を使い、ソファーに座る。


「ユアサ、俺はこの世界の服が欲しい」


 座ってまず最初に口にしたのは要求だった。

 遠慮がないな、コイツ。


「しかし、俺はこの世界の事について知らん。故に!」


 エルドラが両手を広げた。


「この世界の住民である貴様の服を見せろ。参考にする」


 あまりにも尊大な態度。

 それが人にモノを頼む態度か?


 しかし、エルドラの要求を飲むわけにもいかない。

 服を見せれば、性別がバレる。

 なので、私はエルドラの隣に座ってスマホの画面を見せた。


「む? 服屋のそれぞれが通販も兼ねたアプリを提供していて、コーディネートも提案してくれる、だと? ……便利すぎないか?」


 現代日本の利便性と購買意欲を唆るUIにまんまとハマり、エルドラは目に留まった商品から商品へと閲覧していく。


「なあ、ユアサ。暇だよな、今日」


 特に予定は入れていない。


「か、買い物に行かないか……?」


 エルドラの装いを見る。

 いくら洗浄魔法をかけているからといえども、ずっと同じ服でいるのも可哀想だ。


 私は頷いた。

 ちょうど日用品も買いたかったし、ついでにエルドラの面倒を見てもいいだろう。


「そうと決まれば急ぐぞ。早く服を選びたい」


 事前に欲しい服が決まっているみたいだし、それほど時間はかからないでしょ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る