第3話 もしかして致命的に相性が良い?

 エルドラの協力もあり、中学生三人組の行き先を絞ることに成功した。

 しかし、進む先が問題だった。


 この【潮騒の川】は、金属製の武器や防具を急速に錆び付かせるという厄介な性質を持つ。

 特殊な加工を施してあるならともかく、まともな金属はものの数時間と保たない。


 まともな武器も防具もなく、更に進んだ先はよりにもよってダンジョンのボスが住み着く寝床。


「いきなり急いでどうした?」


 背後から追いかけてくるエルドラ。

 どうやらこのダンジョンについてあまり詳しくないらしい。装飾品は……どれも特殊な加工が施されている。その上で、ダンジョンの影響を遮る結界まで張ってるから気づかないのか。


 『名の知れた魔術師』を自称するだけの事はあるらしい。


「この先に強い魔力を感じる……もしや、ボスがいるのか?」


 察しがいいねえ。君、故郷で頭いいって言われた事ない?


「ハン、ビギナーズラックでボス部屋に直行か。面白くなってきたな」


 倫理観ゼロ点の感想ばっかり吐いてる。

 ヤバいなあ、コイツ。

 今のネット時代で即炎上するよ。


「おい、ユアサ。貴様、このダンジョンに忍び込んだチュウガクセイとやらを助ける為にここへ来たのだろう」


 いまさら否定することでもないので頷く。


「俺にとってはどうでもいいが、少し貴様に興味が湧いた。貴様の出方次第では引き続き協力してやってもいいぞ」


 な、なんだコイツ。

 ぶつかってきたことに対して粘着してきたかと思えば謝罪したら狼狽えて、挙句には条件付きで協力を申し出る、だと!?

 属性の玉突き事故を起こしているのに、本人にその自覚はない。


「見たところ、貴様はタンクだろう? 我々の世界では神話ぐらいでしか見かけない役割だが、噂ぐらいは聞いた事がある。Aランク冒険者、ユアサカナデ、二つ名を“生還者リターナー”。あらゆる攻撃も魔法も耐え凌ぐ。そうだろう?」


 なんでここまで確信した物言いをするんだろうか、と心の中で首を傾げていたが、彼の目を見てすぐに理解した。

 異世界では相手の能力を数値化する魔法があるという。

 エルドラの目に展開された金色の魔法陣は、恐らくそれだ。


 ……待って。

 私、二つ名あるんですか?

 初耳なんですけど!?

 生還者と書いて、リターナーって読むんですか!?


「貴様は俺の言う通りに動け。いいか、まずボスを見つけたら俺が攻撃を叩き込む。貴様はその隙にチュウガクセイとやらを保護しろ」


 あれ?

 『終の極光』といる時とあまり動きが変わらないな。まあ、即席のチームワークで慣れない動きをする方があぶないっていうし、指示された通りに動くかあ。


 数分としないうちに辿り着く。

 というか、悲鳴が聞こえた。


「あ〜助けて〜」

「やめてぇ、野郎の触手シーンは誰も得しないのぉ〜! うおおおっ! ケツはやめろっ!」

「頭に血が昇るゥッ!」


 不法侵入した中学生三人組は、かなり余裕のある悲鳴をあげていた。

 ボスであるオーシャンスライムの触手に捕まり、吊るされている状況だ。

 海水や川の水をたらふく取り込んだのか、通常のスライムという魔物よりも遥かに大きいのが特徴だ。


 捕らわれた中学生たちを見上げ、エルドラは静かに呟いた。


「……余裕そうだな。心配して損した。帰ろうぜ、ユアサ」


 さっきどうでもいいと宣っていたとは思えない発言を溢しながら、サラリと外道な提案をするエルドラ。

 そういうわけにはいかないと首を横に振る。


「しかたない。あの見るからにバカそうな奴らを助けるのは気乗りしないが、このままでは埒が明かないのも事実。手早く片付けるぞ」


 そう言って、エルドラは何処からともなく杖を取り出した。先端に宝玉を嵌め込んだ、王笏のようにも見えるそれに魔力を込めていく。

 そして、歌うように古代語で呪文を紡ぎ始めた。


「我が魔力で彼の地を満たす。齎すは破壊、混沌、万物の否定。我の前に立ち塞がるその一切を焼却する。地獄の炎よ、我が前に顕現せよ、獄焔ヘルフレイム!」


 おいバカ!

 いくら異世界の私でも、その呪文は知ってるぞ! 戦争だとか焦土作戦にしか使われないような、大規模破壊魔術じゃねえか!

 こんな狭いところで使うな、ボケェッ!


 うおおおっ、間に合え、私のスキルゥッ!

 『カバーリング』!


 効果は単純明快!

 指定した範囲内の対象が受けるあらゆるダメージを、代わりに私が引き受ける。

 つまり、何が起こるかというと……







 アッツゥイッ!!

 中学生三人+エルドラのダメージと、私への攻撃が重なってるッ!

 半端なく熱い! 痛い! 燃える! いや燃えとるぅっ!





「おお、すっごいよく燃えてる……ユアサが俺の魔法を耐えてる……すっげぇ……」


 か、感心してる場合かバカァッ!

 私じゃなかったら死んでたぞ、今の攻撃!

 敵を倒す為に味方もろとも爆破する奴があるか、アホッ!


 と叫ぶ体力も気力も勇気もなく、私は痛みと熱さに歯を食いしばった。

 いくらダンジョンボスとはいえ、オーシャンスライムがあの攻撃を耐えられるはずもなく、水の代わりに蓄えていた海や川の水は跡形もなく蒸発。

 ドロップ品のスライムコアまでも残留していた熱でどろどろに溶けていた。


 捕らわれていた中学生三人組は、周囲を見渡しながら、戦々恐々とした面持ちで震え上がっている。

 いくらダメージはないとはいえ、思いっきり魔法攻撃に巻き込まれたのだ。精神的な動揺は少なからずある。助けに来た冒険者に魔法をぶち込まれたら私も震えるわ、恐怖で。


「すごいぞ、ユアサ。この俺の魔法攻撃を食らって、原型を留めたのは貴様が初めてだ!」


 キラキラと目を輝かせるエルドラの脛を腹いせに蹴ったが、本人にはまるで効いてなかった。

 それどころか、戯れていると思ったらしく仕返しとばかりにファイアーボールを何発か食らう羽目になった。

 なんなんだよ、コイツ……。


 放心状態の中学生を抱え上げ、脱出用の転移陣を目指す。

 なんか今回は異様に疲れたな。

 早く帰って休もう。

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