第2話 初任務
私がUNSに入ったのは、今から約三年前、まだ中学一年生の時だった。局長にスカウトされてから本部のあるアメリカへ行き、三年間にわたる訓練を終了して、先週日本に帰ってきた。それからは局長が手続きをしてくれて、この深山家に養子として入ることができた。私が行く高校も、経済を動かす大物や政界に関わる人たちが多く通う、煌桜学院高校を選んでくれた。その方が深山家の一員として相応しい経歴になるし、何より任務に都合がいいからだ。
「入学式の様子はどうでしたか?誰かに監視されていたような気がしたとか」
「特に問題ありませんでしたよ。同じクラスの中には政府や財閥との関わりが深い生徒もいたので、必要があれば情報を引き出す機会はいくらでもあると思います」
「さすがですね。それより、なぜ私があなたを今日ここに呼んだか、その理由は分かっていますよね」
「任務に必要な用具が届いたんですか?」
「その通り。私たちが飛行機で日本に来るときには銃器などは持ってこられなかったので、船を利用して持ってこさせた結果、時間がかかってしまいました。今日の朝に届いたので、今渡しておきますね」
局長から渡されたジュラルミンケースの中には、拳銃二丁と弾丸、盗聴器など、任務に必要な用具が入っていた。でも、今これを渡すと言うことは、まさか...。
「実は、今日ここに呼んだのはもう一つ理由がありましてね。今日の夜十一時に羽田空港の第一国際貨物ビルで、中国からの経由便で麻薬の密輸入があるとUNS中国支部から連絡があったので、日本でその男を拘束しなくてはならなくなりました。せっかくなのであなたの初任務にしようと思うのですが、いいですよね?」
その局長の半分脅迫のような笑顔と言葉に私はイエスと答えるしかなかったし、今日は予定があるわけでもなかったので、結局任務を引き受けることになってしまった。局長から今回の任務の資料を受け取り、これから私の足となってくれるバイクを引き取ってから、そのまま家に帰った。
局長はイギリス人で、特徴は、色白・緑色の目・ブロンドの髪だろうか。本当はアメリカの本部にいるはずなのだが、なぜか日本支部にいる。でも局長が日本にいるおかげで、日本支部の人手不足は解消されつつある、らしい。
そんなこんなで、任務の時間まであと二時間になった。家族はまだみんな帰って来ていなかったので、ホルスターに拳銃を入れてから任務用の私服に着替え、書置きを残して家を出た。そして、さっき日本支部で受け取ったバイクに乗って、羽田空港へ向かった。
...ちなみに、私はバイクの免許を持っている。アメリカで訓練を受けている時に、任務に必要だからと言われ免許を取ることにしたからだ。実は、日本でバイクの運転免許を取るには十六歳以上じゃないといけないのだけれど、そこは局長が機転を利かせて、警察庁にいるUNS諜報員にお願いして、免許を発行してもらったらしい。
今回のターゲットは、麻薬と一緒に中国から日本に飛んでくる中国人男性と、羽田空港で中国人男性に麻薬を渡す役割の日本人の、合計二人。中国人男性は、中国で麻薬のバイヤーとして活動しているらしく、中国支部が拘束しようと警察と一緒に準備していた時に、彼が持っていた麻薬と一緒に日本に逃げられてしまったようだ。もう一人の日本人は、おそらく国際線からくる荷物の仕分をする職員だと思う。わざわざ空港を出て人の少ない貨物ビルまで行くのだから、税関職員と繋がっている線は薄いと考えられる。となると、取引場所である第一国際貨物ビルで荷物の仕分けをしている職員が中国人男性と繋がっていて、仕分けをしている時にこっそり麻薬を抜き出し、中国人男性に渡す、と考えた方が自然だと思う。
空港には、四十分ほどで着いた。第三ターミナルの駐車場にバイクを止め、そこからはターゲットを尾行しながら約束の場所に行くことにした。ターゲットが乗ってきた便は到着してから時間が経っているので、もうターゲットが外に出ていてもおかしくない。しばらく到着口の辺りで待っていると、資料に載っていた中国人男性が第一国際貨物ビルの方へ歩いていたので、念のため手袋をはめて、その男性を尾行することにした。
歩き始めてしばらくたつと、中国人男性は第一国際貨物ビルに到着した。中国人男性から少し離れて物陰に隠れながら様子を見ていると、仕分け職員の男性と話している様子が確認できた。いよいよだ。
ドクン、ドクン...。
心臓の鼓動が、段々と大きくなっていく。初めて私に下った任務。期間がだいぶ空いたから、体がなまってて、うまく動けないんだろうなぁ...。それに、少し怖い気もする。でも今は、そんなこと関係ない。
国のため、世界のため。
...そして、私と同じように悲しい想いをしている、世界の子どもたちのため。
そんな子達を救うため、平和な日常と別れを告げ、私はUNSに入ったんだ!
絶っっっっっっ対に私が、世界の子どもたちを守って見せる!
コンクリの地面を蹴り、一目散に駆け抜ける。一気に間合いを詰め、飛び蹴りで相手の顔面を潰しつつ、威嚇。
一瞬、その場に沈黙が走る。月光に照らされた汗が地面に落ち、再び鼓動する。
美しく、早く。風の流れにのった私の頭には、もう“恐怖”の二文字はなかった。
ただ私が思うがままに体を動かし、無心で攻撃をくらわせていく。...でも。
パンチ、キック、...次々に攻撃が跳ね返されていく。必死に抵抗するが、相手はなかなかひるんでくれない。
その瞬間、不意に背後を取られ、相手の攻撃が私の背中にクリーンヒットする。バランスを崩した私は、地面に向かって倒れ込む。無心から一転、我に返って少し落ち着くと、私の口から血が出ているのに気づく。
二人に囲まれ、私はスキだらけ。そして攻撃による負傷。コンディションは最悪。
でも、そんなことで諦めていたらエージェント失格だ。
何があっても、どんなに痛い目に合っても、誰かのため、最後まで戦い続ける。
それがUNS諜報員の使命だから。
それが私、深山檜だから...!
私は、私の任務を、UNSの使命を、命を懸けて果たすだけ...。
そこからの出来事は、よく覚えていない。ただ、ふと気がついたときには、全てが片付いていた。ターゲットの二人は私の目の前で横たわり、失神していた。それに気づいた私は急いでポケットからスマホを取り出し、日本支部に任務が終了したと報告した。局長が警察に連絡してくれるとのことだったので、電話を切った後は、バイクに乗ってそのまま家族が待っている家へと帰った。
時刻はもう十二時を回っていた。日付が変わっても東京の町は賑やかで、これから続く私の東京での生活を暖かく見守ってくれるような、そんな気がした。
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