第4話 大切な友だち
「どうしてプールのあと帰っちゃったの? ママの作ったプリン一緒に食べようって言ってたのに」
「初恋のアズくんと話したいと思ってさ」
「初恋って何? 初めて出来た友だちって言ったけど」
「それを初恋って言うんじゃねえの」
ヨッシーは唇を尖らして視線も合わせようともしない。
ルナはあんぐりと口を開けたままヨッシーを見上げた。
「言わないよ。初恋じゃないよ」
「じゃあ、おれは何?」
「ルナの大切な友だち。困ったときすぐに駆けつけてくれるヒーロー」
「ふふん、ヒーローか。ルナちゃん、明日映画行かない?」
「う、うん、いいけど、小学生だけで行ったらまずいんじゃない」
ヨッシーは胸を張った。
「中学生のお兄ちゃんが一緒だから大丈夫だ」
「ハハハッ、お兄ちゃん、ポップコーンとコーラも買おうね」
「おれ、コーラを飲むとゲップが出るんだ」
「ルナも」
最初の重苦しい空気が嘘のように払拭され、二人はいつまでも笑い転げた。
「今日、ハンバーグするからヨッシーも誘ってってママに言われた」
「ウッヒョー、ハンバーグ」
ヨッシーは飛び上がって喜んだ。
「みおさん、夜勤でしょ」
「何で知ってるんだよ」
「だってヨッシーのママみおさんと、うちのママはメル友だもの」
「ルナはもらえない。それに来ないでって言ったのに」
「えっ、どうして?」
「そんな資格ないの。オトちゃんにあげて」
バレエの発表会に、ヨッシーが持って来た小さな花束を突き返され呆然と立ち尽くした。
それを見ていた一平は言った。
「ヨッシー、道のりは遠いぞ」
一平はかつてナオの仕事場の薬局で、バラの花束を突き返されたことを思い出していた。あのときは辛かった。多少のことで折れない一平の心は修復出来ないのではないかというくらいに傷ついた。
仕事場で心が折れそうになると、あのときのことを思い出し、よく頑張ったと自分を誇らしく思うことにしている。
ヨッシーにもいつかそんな日が来るかもしれない。
開演を知らせるアナウンスが流れた。
「ヨッシー、行こう。始まるぞ」
身体は大きくても、やっぱり子どもだなあ。
ヨッシーは項垂れたままでいる。
🏠さくらみおさん、お名前をお借りしました。ありがとうございます。
作品『さくら日和』
https://kakuyomu.jp/works/16816927861825602543
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