第3話 郊外の交差点にて

 初めて訪れる町へ行く時のことです。

 その町は県内(道内)でも小規模な町で、隣町の市街地からも車で二時間は離れているところでした。


 そんな人気ひとけも信号も無い、郊外の交差点に車で向かっています。

 片側一車線の道路ながら、わりと視界がひらけた道で、晴れていたせいか遠くまで良く見える日でした。

 運転手は別にいて、私は助手席に同乗していました。道路のかたわらの標識には、この先T字路のマークがありました。

 周りに民家や建物は、めっきり見えません。

 管理されていない街路樹が、なけなしの細い歩道をおおっています。市街地から何キロも離れていて、車ではないと来られないような道でした。

 離れた市街地同士を結ぶ道路のせいか、郊外の割に交通量はありました。


 そんな歩道を、地味な格好のおじいさんが一人、とぼとぼと歩いていました。

 私たちの車の進行方向の真っ正面です。

 おじいさんは、グレーのポロシャツにベージュのスラックスで、荷物は何も持っていません。

 少しうつ向き加減で、背中が曲がり、小さな歩幅で歩くおじいさんは、すぐ脇を通る車のことなんて全く気にしていませんでした。

 こんな所にも歩行者がいるんだな、地元の人は大変だなあ、なんて窓越しに見ていました。

 おじいさんは交差点に来ると、歩みを止めて立ち止まりました。


 おじいさんは交差点の中央部を見ています。

 まるで車を警戒して注視しているようにも、威嚇しているようにも見えますが、おじいさんがいる場所は歩道です。

 余程のことがなければ、轢かれることはありません。

 なぜあんな歩道の真ん中に立っているのだろう。

 私は不思議に思ったまま、私が同乗した車は交差点に差し掛かり、右に曲がろうとして、ようやく交差点の全貌が見えました。


 車が直進する方向には、奥の方に一軒の家が建っています。

 二階建てですが、結構大きな家でした。

 その家は、あまり手入れされていないようで、雑草が伸び、車や人が行き来している様子はありません。

 

 あのおじいさんは、家の敷地の前で立ったまま、顔も動かさず、一点を見つめています。

 信号はありませんし、道路を渡る素ぶりもなく、何かを落とした様子でもなさそうです。

 おじいさんの視線はこちらを見ている訳でもなく、道路の方向をぼんやりと見ています。

 

 私たちが乗る車は、右から来る車が途切れるのを待って、T字路を左に曲がりました。

 私はおじいさんが気になったので、目で追っていましたが、車の死角になっておじいさんを見失いました。


 それきり、おじいさんの姿はどこにも見えなくなりました。

 後ろを振り返ったり、あちこちを見回しましたが、おじいさんどころか、誰一人として歩行者はいません。


 私を乗せた車は、そのままT字路を離れて行きました。

 帰りも同じ道を通りましたが、歩行者すら見かけませんでした。


 あのおじいさんは、どこへ行こうとしていたのか、あの場所で何かあったのか。

 私に知る術はありませんでした。


 終わり。


 2023/09/21追記

 読み返して、思い出した部分が多かったので、前半部分を大幅に加筆修正をしました。

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