第6話 バレバレ!?
帰路はやや緩やかな上り坂も多かったが、隊員達は物ともせずに荷車を押し。特に何事もなく、予定通りの到着だった。
百鈴は馬上から彼等の働きを見ていたが、相当に足腰が鍛えられていると感じた。
──曹長はあれで鍛えられたのかも。
最初、百鈴は馬が違うのかと考え、馬豹に頼んで交換してもらったが意味はなかった。
おかしいなと首を
「修行が足りんだけだ」
馬豹は言って笑っていた。
馬豹は、この輜重隊での叩き上げで一兵卒から曹長になり、現在は隊の副官を務めている。
彼女が達人の
運んで来た荷は、簡単な屋根だけある場所に降ろされた。
明日、別の隊が運ぶのだという。
「荷車に乗せたままじゃダメなんでしょうか?」
百鈴が
「荷車は隊ごとに管理している。その整備、点検も隊の責任で行う」
そう説明した。
道中で不具合が出ても、他に文句は言えないというわけだ。
百鈴から見るに、袁勝は上官らしい上官だった。
寡黙でも多弁でもなく、適度な堅さと遊びのある態度で、隊員達からの信頼も厚かった。
特に馬豹の心酔ぶりは凄く、百鈴には何がそこまで彼女を突き動かすのかわからなかったが。
その馬豹は見かけによらずの
葡萄酒が配られた折は、その
百鈴が知りたい大概の事は馬豹に聞けば良かったが、
部隊は兵営に戻ると、隊員達は荷車の泥を落とし、綺麗に掃除しだした。
きっとこの後、整備などもするのだろうと百鈴は想像した。
隊長の袁勝は、賊の首、彼等の武具、乗っていた馬などを本営に届けに行ったようだ。
百鈴は馬豹と共に、報告書など、書類仕事を
慣れぬ作業ではあったが、夕刻前には全てを終わらせる事ができた。
本営から戻った袁勝は皆を集め。
「討ち取った賊徒に賞金が掛かっていた。また、武具と馬から報奨金も出た。あわせて四十七金になるが、通例通り、一人一金とし、残りを討ち取った馬豹曹長に渡したく思う。異論のある者はいるか?」
そのように聞いた。
誰も文句はないだろうと思われたが──。
「隊長。敵の首領に一太刀あびせ、
馬豹が、なめらかに舌を回して言った。
──余計なことすんなよ!
思ったが、否定するのも違う気がして、どうしていいか分からず。みっともない姿だけは見せたくないと考え、さも
袁勝は
「なるほど、それは一理あるな。では、軍曹は三金、残りを曹長に渡す」
言って話は終わった。
任務終わりは基本翌日が休みだ。
一日二日程度の短いものなら無いこともあったが、今回は、のべ十日間に及ぶそれであったため当然であった。
隊員の中には九門に家族がいる者もいて、彼等は家に帰ったりするようだが。そうでない者は、連れだって街に出かけた。臨時収入も彼等の行動に弾みを与えたようだった。
百鈴は一つ任務を終え、今後について、あらためて整理したかった。
一度は諦めようかと考えた軍人の道を、この隊で続けてみようかとか、そういう事をだ。
しかし──。
「よかったな。分け前が増えて」
と、馬豹が恩着せがましく
百鈴も。
「曹長の配慮、大変ありがたく思います」
一応の謝意を表すと。
「そうか、そうか。感謝の言葉を聞くのも悪くはないが、兵営では堅苦しさが残っていかん」
とか何とか言って、馬豹は百鈴を街へと連行した。
道すがら。
「私に分け前を渡したいなら、曹長が自分で渡せばいいじゃないですか」
百鈴が言うと。
「何を言ってる。隊長や、皆の覚えをめでたくしてやろうという、私の心遣いが理解できないのか?」
やれやれといった感じでいう馬豹。
──感謝をねだるような事をしておいて・・
思ったが、そこには言及せずに。
「理解はしています。ですが、実際大した活躍でもないですし、変に目立ちたくないです」
そう返した。
「敵の指揮官に攻撃し、潰走させるのが大した事ないか」
馬豹は、思いのほか静かに言った。
百鈴は少し戸惑った。
なにか、馬豹の触れてはいけない部分をさわってしまったのでは、と危惧した。
「なぁ百鈴──。まだ辞めたいのか?」
──!?
馬豹は歩きながら続ける。
「驚くことはないさ。ここに来た奴は大概そうだ。一般兵なら基礎訓練後だから、それ程でもないかも知れんが。お前のような学校出なら、二年も修練したあげくに輜重隊じゃ、やってられないだろ」
百鈴は返答に
それでも何か言わねばと思い。
「私は、前衛の部隊で活躍することを夢見ていました」
ひりだすように言葉にした。
「だろうな──。でなければ、大したことないなどとは思えんさ。賊徒ではなく、正規の軍人を倒す事を考えているのだから」
馬豹は続ける。
「袁勝大尉の元にいれば、レベルは上がるかも知れない。でも輜重隊の任務は、自分の思っていた軍人の姿とはかけ離れている。このまま続けようか、別の道を探そうか・・」
百鈴は得体の知れぬ汗が
それ程に自分の態度は雄弁だったであろうかと、百鈴に自問させる、馬豹の言葉だった。
しばし沈黙が続いた。
百鈴は気後れする自分を
それをわかってか、知らずか、馬豹はタイミングよく。
「で──、どうするんだ?」
立ち止まり、百鈴の目を見て聞いた。
そこには、あの獣のような眼光はなく。
こんなときに百鈴は。
──そんな優しい目も出来るんじゃない。
と、不思議な気持ちになった。
それで、どこか余分な力が抜けたのか。
「わかりません。でも、もう少し続けてもいいかと思ってもいます。今は、まだ、自分でも曖昧なんです」
考えていたよりも、すうっと声が出た。
馬豹は聞くと。
「それならそうと早く言え。もったいぶりおって、生意気だぞ」
言ってニヤリとした。
これに百鈴も。
「行儀良くしなくてイイと言われましたので」
と、ことさら小生意気に返した。
馬豹はフンッと鼻を鳴らすと。
「行くぞ」
と、また歩き出した。
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