第3話 なに、この強さ!?
賊は目前に迫っていた。
それでも隊員達は落ち着いていて、それぞれ4~5人の班をつくり、迎撃態勢を取った。
「雑魚は皆に任せればいい、私達が狙うのは隊長格だ」
「首領を含めて、五人ってところだ。たぶん馬に乗ってる奴だろう。ほかに弓を
馬豹は、百鈴の動揺を気にした
「大丈夫だ、我等には隊長が付いている」
と、これまでとは少し違う音で言った。
賊の凶刃が
が、このとき既に、攻め手の勢いは
奇襲を受けるという状況下での、隊員達の整然とした対応に、なにか異質なものを感じていたのだ。
その感覚は正しかった。
〔
次の瞬間。
「かかれ!!!」
賊と隊員、二つの勢力が激しくぶつかる。
が、その強度は圧倒的に違っていた。
ぶつかるや否や、賊の方は
「いくぞ、立て直させるな!」
馬豹が言って駆け出す。
百鈴も遅れまいと急ぎ馬を走らせた。
しかし、馬豹が速すぎる。彼女の乗る馬も、百鈴と同じく名も無き軍馬でしかないはずだが、どこぞの名馬かと思わんばかりの疾走であった。
馬豹は一直線に迫る、向かう先は隊長格と思われる賊だ。
相手も気付いて、返り討ちにせんと馬豹に向かって駆け、槍を突き出した。
馬豹はそれに自身の槍を軽く合わせると、瞬刻、槍を回して相手の持ち手を払い、敵の槍を
──なに、あの動き!?
百鈴には、馬豹の槍が、達人のそれに見て取れた。
彼女は馬豹の武技に、大いに興味を持ったが、今そんなことを考えている暇はない。
百鈴に対しても、賊の何人かが襲いかかろうとしてた。
──こんなところで、こんな奴らに!
百鈴は軍人を志したときから、前線で華々しく活躍するのを夢見ていた。
それがレベルがなく、スキルを得られず、輸送部隊に回され、今こうして奇襲を受け、危機に
哀しく
彼女は怒りを利用して、自身の闘争心を掻き立てた。
「ハッ!」
百鈴は敵の捕捉に、先手を打って仕掛けた。
相手も当然それに対抗せんと槍を突き出す。
百鈴はそれを軽く
しかしどうしたことか?
──隙がある!
百鈴はそのように感じ、敵の攻撃に構わず一気に突いた。
すると彼女の槍は、自身が想定してたよりも、
だがそれにも、百鈴は左の逆手で剣を抜き敵の攻撃を弾くと、すばやく持ち替えて相手の腕を切り落とした。
──なに、この動き!?
百鈴には、自分で見たもの、自身がやったことが信じられなかった。
驚きと、得も言われぬ高揚があったが、感慨に
彼女の仕事は隊長格を倒す事だ。
理屈は分からぬが、今はそれが不可能ではなく、
──あれだ!
百鈴は指示を出している賊に狙いを付け馬腹を蹴る。
「はぁぁぁぁ!」
気合いの声。
反応したか相手も。
「舐めるな、小娘!」
同じく馬腹を蹴って向かい合う。
相手の武器は、柄の長い戦闘用の斧だ。
〔 剛薪割り 〕
賊の強烈な振り下ろしが来る。
──まともに受ければ折れる。
百鈴は瞬時に攻撃の勢いを読みより、受け流す事に徹した。
「
敵は続けて横薙ぎに仕掛けてきた。
このままだと、馬ごと斬り付けそうだ。
──防ぎきれない。
思うや否や、百鈴は槍を手放し剣を抜き放った。
その抜剣は、やはり彼女の予測を超え、一閃、賊の体を斬り付けた。
「ぐぁ!」
相手が
──もう一撃で倒せる。
百鈴が思ったときには、敵は馬腹を蹴って駆け出した。
「逃がすか!」
言ったものの、馬の足が違いすぎる。両者の距離は直ぐに開いた。
すると──。
逃げた賊に呼応するように、他の賊達も逃走に転じた。
──やった! 撃退した!
百鈴は自分のやった事を噛みしめ、心だけでなく、全身が震えた。
が、しかし──。
「一人も逃がすな! 追撃!」
袁勝の指示に耳を疑った。
百鈴が真偽を確かめようと困惑している間にも、隊員達は烈火の如く賊に襲いかかった。
「百鈴、ぼけっとするな!」
馬豹の叱責が飛ぶ。
百鈴は、予期せぬ展開と、馬豹から呼び捨てされた事で更に困惑しそうになったが。
──くそ。どうにでもなれ!
と、唇を噛んで馬を走らせた。
隊員達の動きは良く、逃げる賊にも連携して
袁勝が馬で先回りし退路を断ち、歩兵が足の止まった賊を倒すといった動きも見られた。
百鈴も何人か討ち取ったが。
「ダメだ。あれは届かない・・」
自分が逃がした賊が遠くにいるのを見て、そう
と、そのとき。
〔
馬豹がこれまでよりも、更に速く馬を疾駆させ、あっという間に百鈴の逃がした賊の背後に迫った。
そして、気付いた相手が振り向いた際に、駆けた勢いのまま槍で突き落とした。
遠くて百鈴には詳細は見えなかったが、賊が絶命しているのはわかった。
配属初日の夕刻、任務中に襲撃を受けた百鈴であったが。彼女を含めた隊員の、信じられない働きによって、事なきを得た。
百鈴は、何が、どうしてそうなったかを考える以前に──。
これが現実である事を認識するのに、しばしの時を要した。
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