第34話 フリーマーケット事件
夏季休暇前に、私が提案したフリーマーケットが開催された。
秋口の予定だったけれど、夏季休暇あとは試験に集中したいとのことで夏季休暇前になったのだ。
サービール王国の高位貴族は屋敷の不要物を数十個持ち込み、あまりお金のない貴族や留学生は一点だけ持ってきてもらう。
家族も呼んでもらい、三日ほど学園のダンスホールに展示される。
なんと宰相様が留学生の持ち込んだ絵画や本を買い占め、騎士団長が下級貴族の銅像が「筋トレに使える」と購入していく、宮廷画家が「失われたロティア・フォロアの未発表作品じゃないか!」とまさかの世紀の大発見までも。
なんとなくの思いつきだったのだけれど、想像以上にいろんな人に感謝されたし来年も開催することになってしまった。
クレイン様にも「思った以上に多くの方に評価をいただきましたね。さすがは生徒会長」と頭を下げられ、他の生徒会役員にも「御見それいたしました」「うちの親にも感謝されました」「自分の親戚が手放して行方がわからなかった祖父の直筆絵画が戻ってきましたァァァァ!」と泣かれてしまったので、なんか、よかったね?
ユーフィアにも「お父様がお忍びで来ていたみたいで、お父様もお母様の実家の家紋入りオルゴールを見つけて久しぶりに笑顔を見たって喜んでいたわ」と内緒話で教えてくれた。
フリーマーケットが終わったあと、後片づけをする生徒を眺めながら生徒会室から出て教室に移動していると、女子生徒に呼び止められる。
「生徒会長、ちょっと来てもらえませんか? 相談したいことがあるんです」
「私にですか? は、はい、わかりました。どちらですか?」
「こっちです、こっち」
見たところ一年生みたい。
カジュアルドレスなので、サービール王国の貴族子女だろう。
空き教室に案内されて、急に前にいた女生徒が私の後ろに回り込み、教室の中に突き飛ばされる。
ええ~~~?
「うぶ!?」
床に顔面を打ちつけた。
は、恥ずかしい、思い切り全力で顔面からいってしまった。
鼻をさすりながら起き上がると、後ろからガチャンと鍵がかかる音。
振り返ると扉が外から鍵をかけられている。
あららららら……?
「”おやおや、生徒会長のフィエラシーラ姫様ではありませんか”」
「えっと、あなたは……」
フラーシュ王国語だ。
窓の方を見ると留学生の制服を着た男子生徒が立っていた。
浅黒い肌を見るに、南部国の方から留学してきた子だろう。
ネクタイの色から一年生。
「”ラーシュ王国のナージョ家嫡男、ロダウと申します。こんなところでニグム様の婚約者様と二人きりになれるなんて”」
「ッ……!」
まずい、フラーシュ王国の貴族子息か。
婚約者がいるのに、殿方と密室と二人きりはどこの国でも好ましい事象ではない。
窓際から座り込んだ私の方に早歩きで近づいてくる。
にやにやと笑っているのを見る限り、私の貞操に御用があるのだろう。
王太子の婚約者として学園内で侍女を置いて歩き回ってしまったのは失敗だったなぁ。
「”ですが――まさか王太子の婚約者である私が、なんの保険もなく一人で歩き回るとお思いですか? 先ほどの女性とは、お金で雇ったのですか? お連れの侍女でしょうか”?」
「”まあまあ、そんなツンケンせず。すぐに天の心地にして差し上げます……”」
はあ、と深く溜息を吐く。
伸びてくる手から逃れて「”最終警告はしましたよ”」とフラーシュ王国語で告げて、スカートのポケットに入れていた風の幻魔石を取り出した。
耳を塞いで、それを床にたたきつける。
「ひっ!」
キイイイイィイイイイイ!!という脳に強く響く大きな音が教室中に鳴り響く。
私の周りには風の結界が瞬時に構成されて、巨大な音から守ってもらえる。
でも、結界があっても聞こえてくるので、これをこの距離で聞くのは鼓膜破けるだろうな。
結界の外を見ると、男子生徒は倒れ込んで頭を押さえて気を失っている。
過剰防衛だなんて言わないでね、一国の王女に無体を働こうとしたのだから命があるだけましよね?
音が消える頃、教室の外に人が集まってくる。
この音は王族が持つ防犯効果付与の
緊急事態なので扉をガンガンと鍵のところを破壊してクレイン様が飛び込んできた。
「生徒会長!? フィエラシーラ姫様が襲われたのですか!?」
「ご無事ですか!?」
「私は無事です。ア、無事ではないです、急に後ろから突き飛ばされてお鼻とおでこを打ってしまったので、ちょっと痛いです」
「この生徒を捕えろ! 衛兵を集めるんだ! ニグム様と会長の侍女は!? 会長、すぐに保健室に! こちらへ!」
「あ、ありがとうございます」
生徒会役員たちに囲まれて、なんだか逆ハーレムのヒロインみたいになっている。
最初は私に敵対心むき出しだった長身の彼なんて、私の手を掴んで「俺の体に寄りかかってください」と迫真の表情で言われた。
フ、フリーマーケットの成功だけでこんなにみんなの態度が変わるとは。
「フィエラ!? 今の警報は君が!? 大丈夫なのか!? なにがあった!?」
『どないしたんや!?』
「ニグム様、フラーシュ様、あの、ええと……」
「『鼻と額が赤くなってる!?』」
あ、ニグム様とフラーシュ様にバレた。
クレイン様が「ニグム様も保健室の方に。事情はそちらで。ですが、先に治療を!」と促される。
なんか大変な大騒ぎになっているんだけれど……?
あ、一応一国の姫だし、大国フラーシュ王国の王太子の婚約者だし、生徒会長だからこの騒ぎにもなるのか!
「姉さん、どうしたんですか!?」
「義姉上、お怪我を!?」
「あ、あ、あ、あ、あとで絶対説明するのでーーー!」
スティールとムジュタヒド様まで来てしまった。
まずい、このままだとユーフィアまで来るだろうし、ユーフィアがブチギレたら混沌と化す。
「クレイン様、私は意識もありますので、混乱を解消することにも人を割いてくださいませ。私は無事、とすぐに公表してください。私を害そうという者にとっては一番知りたいことだと思いますので――」
「ッ、すぐに」
「おい! フィエラは俺が支える! 彼女の婚約者は俺だ!」
「な!?……くっ」
ニグム様が長身の彼から私を奪うように抱き寄せる。
周囲に集まっている生徒から、好奇の眼差し。
あああ、目立ってる、目立ってる。
恥ずかし……あれ?
『フィエラシーラ姫、鼻血出とるで!?』
「出ちゃいましたねぇ?」
「「「「なんで冷静なんだ!?」」」」
ハンカチで鼻を押さえると、ニグム様が私を横抱きにして保健室まで走り出した。
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