第33話 舐めてはいけない
あー、花粉症死ね。
誰ですか、花粉症に完全勝利したなんて言ったのは。
「ずずず……」
「大丈夫か?
「本日の
ルーフェの月――前世で言う五月。
いつもならもう少し休んでいるのだけれど、
ニグム様に支えられながら、タオルを顔面に押し当てつつ自宅の方へ送ってもらった。
自宅に戻ってすぐに別の
土の幻魔石の
鼻水や涙で赤くなったところは土の幻魔石の
ふらふらしながら自宅に入って、応接室でソファーに座ったニグム様がそのまま私の頭をご自分の太ももに乗せる。
……は?
「え? え?」
「君の侍女が部屋を整えて来るまで休んでおけばいいだろう?」
「え、あの、でも……」
いや、応接室には別に二人きりではない。
壁際にアリヌスと、扉の近くにハゼランがいる。
けれど、そんなことを気にすることなく私の頭を撫でていく。
顔をタオルで隠すけれど、耳まで赤くなっている気がする。
撫で方が優しいし、なんか、もう、あれ? なんかああああ!
「あの……ちょっと……ニグム様……」
「ふらふらしているんだから、無理をしない方がいい。それともこの体勢はつらいか?」
「う、あ、い、いいえ……」
こ、声が、降ってくる声が甘い!
こんなに甘い声で、膝枕で、髪を撫でられている。
なにこれ、なにこれ。
私、なんか、これ、なんだか――恋人同士みたいなんですけれど~~~!?
こんなに甘やかされるのって、婚約中でもありなの!?
「頭を浮かさなくていい。力を抜いて、身を預けてくれて構わないぞ?」
「ひっ……!? い、いえ……!?」
私の耳の形をニグム様の指で撫でていく。
ひぃぃいい! 謎にぞわぞわするんですが!?
「や……やめてください……」
「………………」
急な沈黙。
な、なに? 急に黙られても困るんですけど!?
恐る恐る見上げてみると、なんとも言えない表情で見下ろされている。
「可愛い顔を……」
「そんな……!? こんなぐじゅぐじゅの顔――」
「可愛い。そんな赤く涙まで浮かべた煽情的な表情で……いや、体調の悪い君に無体を働くつもりはないけれど……!」
「そそそそそん……っ!」
なんてことを言うの!
慌ててタオルで顔を隠す。
でも、そ、そうか、そういう時の表情に、似てしまっている、のか。
だ、だとしてもーーーー!!
「ニグム殿下」
「わかっている」
「お待たせいたしました。お部屋の準備が整いました、フィエラシーラ姫様」
「すぐに行きます! ニグム様、送っていただきありがとうございます! では!」
「あ」
勢いよく立ち上がり、大急ぎで自室に逃げる。
ベッドに飛び込み、タオルを顔に押し当てたまま仰向けになった。
な、なんだったんだ、今の。
甘かった……!
ものすごい甘い空気だった……!
こんなことあるのか、こ、これが婚約者。
「大丈夫ですか? フィエラシーラ姫様」
「だ、大丈夫……ちょっと混乱したのです。ニグム様に失礼な態度を取ってしまったわ……送っていただいたのに……」
「ああ、大丈夫ですよ。ニグム様も反省しておりましたから」
「え? なんでニグム様が反省……?」
「まあ、少し触りすぎてしまったな、とおっしゃっておりました」
「さ、さわ……」
確かに、耳を触られたのは……ううう。
コキアが「確かに婚約者であっても、触りすぎですね」と眉尻を吊り上げて満面の笑顔。
あ、怒っている。
「ハゼランももう少し気を張って姫様をお守りしなければいけませんのに。まあ、本日の触れ合いはギリギリですね。膝枕くらいなら、まあ」
「そっ…………ですよね!」
「とはいえ、姫様はいずれニグム様の妻として、お世継ぎを産むことになるでしょう。そのあたりのお勉強もなさった方がいいでしょうか?」
「そ!? そんなはしたない!?」
「ということは、ご自分でお勉強なさったのですね?」
「そっっっ……!」
勉強したというか、前世の知識というか、前世で彼氏がいたことはないけれど……知識として知っているっていうか!
それを勉強するなんて、そそそそそんな……!!
「そういえば結婚に関してニグム様と具体的なお話はされているのですか? 卒業してすぐに結婚のご予定なのか、卒業後フラーシュ王国で花嫁修業などをしてから結婚をなさるのか、結婚式はいつになさるのか、など」
「そ、そういうお話はまだしていませんね」
「今年は生徒会長としてもお仕事がありますから、難しいかと思いますが……ニグム様にそれとなくお話しておくとよいかもしれませんね」
「そうですね。体調が戻って復学したら話してみます」
ちょっと早く復学したのもまずかった。
やはり花粉最盛期には、一つでは足りないのか。
それがわかっただけでも、収穫――とでも思うべきか。
この時期に外出する時は予備を持っていくべきなのね。
「……フラーシュ王国に行く時、いくつ持っていけばいいと思う?」
「バスケット一つ分くらいは持っていくべきでしょうか?」
悩ましい。
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