第32話 目標再設定


「姫様姫様姫様ーーーーー!!」

「こら! ハゼラン! そんなに叫んではしたない! 姫様の侍女として恥ずかしいと思わないのですか!?」

「待ってください、コレ! コレ!」

「まあ! それ、水の幻魔石ですか!? まさか、ランク4の――」

「そうなんです!」

 

 あっという間に三月下旬。

 明日から休学、ということで引きこもって勉強をする準備をしていたらハゼランが私の部屋に飛び込んできた。

 その手には親指サイズの大きなコンケーブカットのグリーンアメジストのような祝石ルーナ

 透明感があり、手に持った瞬間体の周りが浄化されるような感覚。

 こ、これはすごい……!?

 

「今使うのはもったいない! しまってしまって!」

「すぐに小箱をお持ちします!」

「え、使用試験はしないのですか!?」

「うっ!」

 

 ハゼランが驚いていつもの私の行動パターンからそう言ってくれたのですが、ランク4の幻魔石ですよ!?

 もったいないお化け、エリクサー症候群が出たのだ。

 確かに、ちゃんと使用試験を確認しなければいけないわよね、うん。

 

「……っ……!!も、もったいないですが、使います!」

「で、では金具を着けますか?」

「え、ええ。コキア、よろしくお願いします」

 

 コキアにランク4の幻魔石から作った祝石ルーナをブローチに加工して、明日の服に着ける。

 うん、これで明日からの生活に変化があるかどうかを細かく書き込んでおこう。

 

「今は大丈夫なのですか?」

「え、ええ。ランク3の祝石ルーナのおかげで去年よりも体が楽だもの。まあ、ランク3の祝石ルーナは一日しかもたないから……」

「噴水に予備がたくさんありますが、毎日取り換えるのは大変ですもんね」

 

 そうなのよね。

 やっぱり一日使い捨ては手間なのよ。

 まあ、何度も同じ効果を付与することで付与しやすくなるらしいので、なにも無駄ではないけれど。

 

「ランク4は本来効果が数ヵ月持続するものですが、本来数日効果が持続するランク3の祝石ルーナが一日で効果切れになるというところを考えると、ランク4の幻魔石から作った祝石ルーナは一ヵ月しかもたないかもしれないわね」

「効果自体は完成、ということでよろしいのですか?」

「うーん……この祝石ルーナは私のような花粉症患者に効果があるだけであり、食物などの体内からアレルゲンを取り込んで症状が出る患者さんはこれではダメなんですよ。食物アレルギーがある方には、やっぱり土の幻魔石から抗アレルギー効果のある祝石ルーナがほしいんですよね。私は今のところ食物アレルギーが出ていないですが、いつ出るかわからないですから」

「蓄積していく、んですよね。そして急に発症する、と」

「ええ」

 

 アレルギーの厄介なところがそういうところ。

 私自身の生活としては水の幻魔石で体に薄い膜の結界を張り、花粉を遮る祝石ルーナがあれば今のところ生活に支障ない。

 むしろ三月の下旬からサービール王国に届く花粉量でも、体調に変化がない状態。

 これはもう、成功と言っても過言ではないだろう。

 前世で私を殺し、今世で私から家族を奪った花粉に、私はついに打ち勝った。

 二度と花粉に負けない生活は、ランク6の幻魔石を手に入れ、効果付与を完了させた『対花粉祝石ルーナ』が完成した瞬間に完全勝利宣言とともに完成する。

 その道筋が、ついに見えてきたのだ!

 でも、食物アレルギーに関してはまだ研究半ば。

 幻魔石の相性的にもやっぱり土の幻魔石がいいと思うのだけれど……ランク4の風と火の幻魔石にも同じ効果を付与できるか試してみる、か?

 

「まあ、今夜はもう食事して明日から対食物アレルギー土の幻魔石研究を開始するわ!」

「休んでくださいませね。そのための休学ですので」

「う」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 翌日から土の幻魔石の付与を集中的に研究して、時々アリヌスが訪ねてきてフラーシュ王国のお勉強。

 王妃として必要な教養については、休学の終わりの方に「もう教えることはございませんね」と困った表情で言われてしまった。

 もう終わり……?

 驚愕したけれど元々フラーシュ王国は男尊女卑が進んでおり、王妃の仕事がどんどん減っていったらしい。

 王妃から権威を奪うためだ。

 さらにハーレムの存在が、王妃の価値をさらに貶めた。

 ハーレムで親族が増えたことで王妃の仕事を取り上げて、男の価値を高めた側面もあるそう。

 なるほど。

 

「あとは夏季休暇の時にフラーシュ王国でニグム様を支持する貴族と顔を合わせておくのは在り処と思います。貴族の男と顔を合わせてよいとされているのは王妃様と姫様だけですので、中央部の文化を貴族どもに思う存分わからせて差し上げればよいかと」

「あらあら」

 

 つまり王族とその親族だけでなく、貴族も男尊女卑思考が根強い、と。

 女性を閉じ込めて自分だけのものにしようとする、南部の国家はの男子は独占欲が強いのねぇ。

 

「アリヌスも貴族だろうに、そうは思わないのですか?」

「ニグム様についてこの国に来るまでは、それが当たり前だと思っておりました。しかし、守護獣フラーシュ様のご意向もお聞きしましたし、なにより男と女の能力の差など筋力くらいなものなのだということを、フィエラシーラ様に思い知らされましたので」

「まあ……? そんな雄々しいことなどしていないと思ったのですけれど……」

 

 すごい言われよう。

 と言うとアリヌスにクスクスと笑われてしまった。

 アリヌスと話していると、去年の夏季休暇の時に私の世話を焼いてくれたラフィーフを思い出す。

 彼女は食物アレルギー持ちなのよね。

 彼女にまた会う時に食物アレルギーに効果のある祝石ルーナが完成したらいいのだけれど……。

 うーん、頑張ろう!

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