第31話 弟たちとユーフィア


「はじめまして、ユーフィア様。姉様と仲良くしてくださりありがとうございます!」

「スティールです! 私の弟なんですよ!」

 

 入学式翌日、私はスティール、ニグム様はムジュタヒド様を連れてサロンでご紹介した。

 私たち四人は新年祝祭期間中に顔合わせ済みなので、ユーフィアに私たちの弟を初めて合わせたのだが私の弟スティールを見つめて頬がほんのりとピンク色。

 しかも、顔のいい殿方にはなれているはずのユーフィアが、珍しい反応だなぁ、と思っていたらススス……と私の背中に回り込んできた。

 

「男の子のフィエラ……」

「なにを言っているの……?」

 

 ユーフィアがなにを言い出しているのかわからないけれど、そりゃ親が同じなので私とスティールの顔立ちはよく似ていると思う。

 でも、やっぱりスティールは男の子だし全体的に似ているだけだと思うのだけれど。

 

「どうかしたのか?」

「えーと?」

『あはははは! かわええところあるんやなぁ!』

 

 と、ニグム様の肩にフラーシュ様が現れて大笑いし始めた。

 なにをおっしゃるんですか、ユーフィアは毎日毎秒可愛いですよ、と私が唇を尖らせて文句を言うと全員に一瞬目を丸くされてしまう。

 

「もう、わたくしやっぱりフィエラと結婚いたしますわ!」

「卒業までは結婚していましょうか~」

「おい……!?」

「いいじゃありませんか! 卒業後はニグム様が独占するのでしょう!? だったら卒業まではわたくしがフィエラの妻で!」

「だ、ダメだ! 在学中は俺の婚約者だ!」

「ケチですわね! そんなに余裕がないと嫌われますわよ!」

「この程度のことでフィエラは俺のことを嫌いにはならない! ……き、嫌いにはならないよな……?」

 

 なんて、急に不安そうに聞かれて不覚にもきゅーん、と胸が痛んでしまった。

 この、ちょいちょいぶち込まれる胸キュン、結構精神に幸せダメージがくる。

 悪いものではないんだけれど、不慣れなのでどうやっても口の端が歪んでしまう。

 変な笑いが出そうになる。

 

「んんんんんん~~~、そ、それはもちろん……ニグム様を嫌いになるなんてありえませんよ……?」

「……なんか笑ってないか?」

「いえ、べ、別に。大丈夫ですよ?」

 

 口を覆って隠しながら、顔を背ける。

 ちょっとあんまり見られたくない。

 だって絶対情けない顔になっているもの。

 

「そういえば、フィエラシーラ様は生徒会長になられたのですよね? 生徒会ってどんなことをするところなのですか?」

 

 そう聞いてきたのはムジュタヒド様。

 本当にフラーシュ様と話せるのですか、という質問は初対面の時に聞かれており、ニグム様とフラーシュ様とたくさんお話して真偽はムジュタヒド様にお任せしたけれど、フラーシュ様の冗談に私が笑うのにニグム様がスン……と無表情になった瞬間「あ、いる」と思ったとのことだ。

 なので、ムジュタヒド様はニグム様と私がフラーシュ様を見て、話をすることができる、と確信しているらしい。

 だから今日は他の話題を、と気を遣わせてしまったんだろう。

 

「生徒会は行事の運営や、なにかのトラブルがあればその対応。生徒が学園で快適に暮らせるように相談に乗ったりするそうですよ」

「留学生もなれるんですね?」

「ええ、そういう制限はないそうです」

「必要なのは一年生の頃の成績ですわ。学年首席が生徒会長になるのです。希望すれば一年生から生徒会に入ることもできるのですが、フィエラは入っていなかったのです。つまり、首席を自力で取って生徒会長になったのですわ。しかも春は花粉症で二ヵ月休学しているにもかかわらず! ね、すごいでしょう!?」

「休学しているんですか!?」

「春は花真かしん王国から花粉が飛んできて体調を崩すんです。なので、屋敷に引きこもってやり過ごすのですよ」

 

 今は一月なのでまだ大丈夫だけれど、三月に近づくともう症状が出始める。

 四月と五月はもう私が生活できる環境じゃない。

 しかし今年は窓が花粉が入り込まないように祝石ルーナを設置して、コキアとハゼランにも外に出る時膜を作る祝石ルーナを持ってもらう。

 快適な生活のためなら、私はなんでもやるわよ……!

 

「その、昨年は毎日のように通ってしまったが、それも好ましくないことだったんだよな?」

「えーーーと……そうですね」

 

 ニグム様が休学中の私に会いに来てくれたことを言っているんだろう。

 そう言われて、自分でも「ああ、もう去年の話なんだな」と思ってしまった。

 あっという間の一年。

 弟たちが増えて、今年もきっとあっという間なんだろうな。

 

「贈り物もダメなのだろうか?」

「贈り物ですか!? うーん、そうですね……香辛料の成分分析をするのにシャーレが足りないので、それはちょっとほしいかもしれません」

「ん?」

「あとは、メモ帳が最近不足しているのと……自動で成分分析をしてくれる機械とかあればいいんですけれど、そういうのを調べる幻魔石があるそうなので、幻魔神殿から取り寄せられないか問い合わせをしているんですけど、女の身では難しいみたいなんですよね。そう! 自分でそういうものができる技術も身につけたいですから、そういう参考書も読んでみたいです。チャイやジャラブ、ハーブティーも興味深いのでもっと調べてみたいですね。確かラバンという塩辛いヨーグルトベースの飲み物は、免疫アップ効果があると聞き及びました。これはぜひ調べてみなければと……」

「うん、うん」

「あとはやっぱり高ランクの幻魔石ですね。ランク4の幻魔石はずっと付与を試しているのですが、やはり付与が入りにくいのでもう少し高いインクと紙を購入してみようと思うのですが、よい店をご存じでしたら今度教えてくださいませ」

「もちろんだ。次の休日一緒に行こう」

「はい!」

 

 ユーフィアが少し呆れながら「フィエラがそれでいいなら……」と呟いていたけれど、なにかおかしいこと言った?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る