第30話 春の交流会
前世で言うところの一月の十日。
サービール王国の王立学園高等部の入学式。
が――行われているダンスホールから離れた中庭。
二年生と三年生はここで『春の交流会』が行われている。
「おかえりなさい、フィエラ! 新入生はどうでしたか?」
「ただいま、ユーフィア。みんな可愛いかったですよ。祝辞も上手くいきました」
「もちろん、そこは疑っていませんわ。わたくしのフィエラは超優秀ですもの!」
そう言って私の後ろに回り込み、肩を掴んでグイグイと会場の方に押し込まれる。
ニグム様は、と探してみるが中庭は広すぎるし二年生と三年生が勢揃いなので人が多すぎてわからない。
ユーフィアに聞いてみても、「さっきはあそこにいたのですが」と頬に手をあてがいながら薔薇の咲いているあたりを見ていた。
「フィエラシーラ様、生徒会長就任おめでとうございます」
「このあと生徒会質の方で、役員顔合わせを行いたいのだが、いいかな?」
「クレイン様、もちろんでございます」
話しかけてきたのは三年生の生徒会副会長でサービール王国アルグレイ侯爵家のクレイン様。
ユーフィアの婚約者候補で今年の年末に卒業となる。
その後ろには同学年の男子ばかり。
それを見て、首を傾げる。
「生徒会には殿方ばかりとは聞きましたけれど、他の生徒会役員は本当に男性しかいないのですか?」
「はい。正直、成績上位十名に女性が入ること自体初めてなのです。主席が生徒会長になるのは伝統であり、校則にも定められているのでフィエラシーラ様が生徒会長になることは問題ないのですが……フィエラシーラ様は留学生なので、まさかお受けくださるとは――」
おや。断ると思っていたのね。
いえ、断ってほしかった、かな?
クレイン様の後ろの同年代男子生徒は忌々しそう。
笑顔で「せっかくの機会をいただけましたので」と笑みで返すとわかりやすく表情を歪める高身長ブロンドの男子生徒が一人。
「そうですわ! フィエラは天才なんですから! 我が校は最高の生徒会長を得ましたわね!」
「ありがとうございます、ユーフィア。皆様の期待に応えられるように頑張りますわ」
「わたくしもできる得る限りお手伝いいたしますわ。サービール王国の貴族が役に立たないようでしたら、わたくしに相談してくださいませね?」
「まあ……そんなことはないと思いますけれど……」
と、ちらりとクレイン様たちを見ると、わかりやすく目を見開いて肩を跳ねさせた。
特に私を睨んでいた長身ブロンドの男が唇の端をひくつかせる。
ドンマイでーす。
「ねえ? クレイン様」
「え、ええ、もちろんです」
「ほら、ユーフィア。自国の貴族令息の皆様をもっと信じてあげてくださいませ」
「……ええ?」
にっこりとユーフィアがクレイン様とその後ろの男子生徒たちを威圧する。
うーん、困ったな。
ユーフィアが男子生徒しかいない生徒会を警戒してしまっているわ。
自国の男子生徒なのだから、あまり威圧するのはよくないと思うのだけれど……あ、そうだ!
「そうですわ、クレイン様。ユーフィアとユーフィアのご友人を生徒会のお手伝いをお願いしてもいいでしょうか? 私は留学生ですし」
「「「「え!?」」」」
嬉しそうなユーフィアと、わかりやすく動揺する男子生徒たち。
クレイン様も半笑い。口の端が引き攣った。
あれ、なんで?
クレイン様はユーフィアに会う機会が増えて、婚約話が進むかもしれないじゃない?
他の生徒会役員男子も、ユーフィアと同い年で良家の優秀な人材。
ユーフィアとの接触機会が増えるのは嬉しいんじゃないかなぁ、と思って提案したのだけれど。
「ええ、ええ! そういたしましょう! わたくしなんでもお手伝いいたしますわ!」
「いかがでしょう? クレイン様」
「…………はい、いいと思います」
目が怯えている!? なんで!?
「くそ、留学生のくせにユーフィア様を後ろ盾になにをするつもりなんだ」
「まあ、でもフィエラシーラ様は十年以上サービール王国に滞在しておられるというし、警戒しすぎではないか? 可愛いし」
「そうだそうだ。考えようによっては我々もユーフィア様と話す栄誉が与えられるということだし……」
「中等部時代から首席だったしな」
「ぐぬぬ……」
クレイン様は少しまだ困惑はされているけれど、やはりユーフィアと話す機会が増えるのは嬉しいのか、先ほどまでの引き攣った笑みを消して頭を下げる。
そしてしばらくは『新生徒会長』としてお茶会会場の一番広いテーブルに陣取って今年一年の行事や仕事について話し合う。
まあ、今年の生徒会役員の親睦会ね。
私の隣にはユーフィアがずーっといたので、役員以外には漏らせない話はもちろんしないけれど。
「秋の交流会以外にもなにか一年から三年が交流する機会があれば、という要望が出ているのですがなにか良いアイデアはありませんか?」
「ああ~~~。確かに秋の交流会から、一年生が参加となりますよね。……そうですね……全学年参加のバザーとかいかがですか? 一人最低一点、手持ちからでも実家からでも不用品を持ってきて広場で売買するのです。生徒たちの目を養うこともできますし、思わぬ出会いもあるかもしれませんし」
「バザー? 貴族である我々が?」
「貴族だからこそですわ。家格も関係なく、よいものをよいと思える心は必要だと思いますの。それに最低一点。多ければ多いだけ、家の力を見せることもできますし」
「「「なるほど」」」
意外にも反対されることなく受け入れられた。
そしてそれは、夏季休暇明けに行われる行事として挟み込まれることになる。
皆さん仕事が早くて優秀ねぇ。
「一瞬で難題を解決するなんてフィエラは本当にすごいわね~」
「難題?」
あとから嫌味だったと聞きました。
あれ嫌がらせだったんだ……。
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