第29話 出会って二年目


「――という感じで、私、生徒会長になりました」

「ほんの二週間ばかり留守にしただけなのに、なんでそんなことになっているんだ?」

 

 新年二日目。

 ニグム様をお呼びして、自宅で食事会。

 明日にはスティールが花真かしん王国からサービール王国にやってくる予定。

 今は私一人と使用人三十名ほどのこの屋敷に、スティールも滞在することになる。

 まあ、寮があるので私もスティールもそれぞれ寮に滞在するけれど。

 

「それで、ニグム様の方はいかがでしたの?」

「ああ、かなり整えてはきたな。今までサボってきた分、貴族の勢力を調整してきた。一つ下の弟も急遽サービール王国の王立学園に留学するということになったらしくて、その手続きを終わらせてきたし……その、入学の時は君に通訳を頼みたい。ムジュタヒドは中央部言語を話せない」

「まあ、もちろん構いませんわ。ニグム様の弟君にご挨拶してもよろしいのですか?」

「ああ、ムジュタヒドは問題ない。直接話をしたが元々俺が王太子で構わないと言われた。問題は親族に祭り上げられている三男だな」

 

 そう言って頭を抱えるニグム様。

 次男のムジュタヒド様はフラーシュ様への信仰心の強い一族出身の母を持ち、フラーシュ様の姿が見えるニグム様なら王太子として相応しいと早々にニグム様を支持すると表明したそう。

 けれど三男のムーダ様は親族と一部の貴族に「正式な血筋はあなたです」とか「ニグム様がフラーシュ様と交流を持てる者など、嘘に決まっている」とか幼い頃から言い含め、かなり洗脳されているとか。

 あああ、なんという。

 あの時に会った親族たちにとってニグム様は邪魔者。

 王位に興味もなさそうだし、いずれはムーダ様を王太子の座に据えて今まで通り甘い汁を吸い続けようとしていたらしい。

 けれど、ここにきて私やニグム様が本当にフラーシュ様と交流ができる者だった。

 しかも私を妻にするからと、私の過ごしやすい国にするために王太子として自覚と覚悟して働き始めたので大慌てだったんだろう。

 そういうものを調整して、必要なら押さえつけ、必要なら排除してきた。

 現王陛下の仕事の一部にも手をつけてきたらしく、卒業後は陛下のお仕事を手伝い経験を積んでいくつもりらしい。

 

「今年の夏季休みはまた君に滞在してもらって、国内の様子を客観的に見てほしいと思っている。ああ、その、希望してもらえるなら、君の弟君も。確か今年からサービール王国の王立学園に留学してくるのだろう?」

「ええ! そうなんです! 明日到着予定なんです!」

 

 もう本当に小さな頃に別れてしまって、悲しくて寂しくて。

 でもニグム様との婚約の挨拶で花真かしん王国に一時期返った時、再会したスティールは背も高くなって最高にかっこよく爽やかになって……!

 明日からまた姉弟で同じ場所で過ごすことができるんだもの!

 離れていたこの十年、故郷でどんな風に過ごしてきたのかを聞きながら、今後のことも話し合いたい。

 私は故郷には……きっと帰れないけれど……次期花真かしん王国国王であるスティールには、姉として重圧による不安を聞いてあげたいわ。

 他にも力になれることがあれば、お姉ちゃんはなんでもします。

 

「って、スティールを夏季休暇の時にフラーシュ王国に!? よろしいのですか?」

「俺だったら、たとえば妹が遠い異国に嫁ぐのに、その国がどんな場所なのかわからないのは不安だ。実際自分の目で見たいと思う。まあ、見られても不安が増すかもしれない現状ではあるが――」

「ニグム様……」

 

 だとしても、私の家族の気持ちまで考えてくださるのは本当に嬉しい。

 嬉しくて「ありがとうございます」と顔を近づけると、珍しく赤い顔のまま顔ごと背けられてしまった。

 最近あんなに積極的だったのに、やっぱりまだまだ十代後半の初心な男の子が出てきてしまうところに胸がきゅんとする。

 

「明日も来ても?」

「スティールに会ってくださるのですか?」

「荷運びなどでバタバタするようなら、後日にするが……挨拶の時はあまり言葉を交わせなかったので話を聞きたいと思っている。ムジュタヒドも明後日離れに来ると言っていたので、同い年のスティール殿下とは仲良くしてもらいたいというか」

 

 と、もごもご口にされるニグム様に、私の表情はさぞキラキラしていることだろう。

 同じ弟を持つ長子として、弟のためにできることはなんでもしてあげたいですものねぇぇぇ!!

 わかります、めっちゃわかります!

 弟同士が仲良くなってくれたら、嬉しいですよねぇぇぇ!

 

「では、六日にお会いしませんか? 顔合わせも兼ねて。私もムジュタヒド殿下にご挨拶したいですし」

「ああ、まあ、それではそうするか。だが、君は入学の挨拶もあるのだろう? 言い出しておいてなんだが、時間が厳しいようなら無理に俺のわがままにつき合わなくてもいいんぞ?」

「え? あ、入学の祝辞は原稿も書き終えておりますし、生徒会の方も春の休学に向けてのご相談も大まかに終わっておりますし……秋の交流会準備の方も昨日始めましたので特に忙しというようなことは……」

「ん?」

「はい?」

 

 なにか変なことでも? と首を傾げると、ニグム様の後ろでアリヌスが「フィエラシーラ姫様は、フラーシュ王国のお茶の作法がまだでございますね」と加えてきた。

 ああ、そうだった。

 あと、香辛料の種類や効能も中途半端。

 

「アリヌス、先に香辛料の方を進めてもいいかしら? フラーシュ王国にのみ存在する香辛料の原材料は、私も知らないものがあります。もしかしたらアレルギーが出てしまうかもしれませんし、逆に抗アレルギー薬の材料もあるかもしれませんので」

「ああ、はい。かしこまりました。ご予定通り、春の休学中に学ばれますか?」

「ええ、よろしくお願いいたします」

「……もう茶の作法まで?」

「はい、ニグム様。フィエラシーラ姫様は非常に優秀でいらっしゃいますよ。フラーシュ王国にはこれほどの才女はおられません。すでにお母上様の教養は、超えていらっしゃいますね。まあ、言語能力ですでにニグム様よりも優秀でいらっしゃいましたし……二ヵ月休学して、学年首席から落ちたことがないという話からも、ニグム様がフィエラシーラ姫様を射止められたのは奇跡的だとじいは思いました」

「…………」


 フラーシュ王国のお茶の素材も、成分が興味深いのよね。

 ああ、香辛料の原材料の成分も調べるの楽しみだなぁ。


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