第28話 冬季休み
冬というのは一番穏やかな時期である。
ニグム様は冬季休みに入るやいなや、すぐにフラーシュ王国に発った。
私もついていければ、と思ったけれど、秋の交流会以降もニグム様には「フラーシュ王国の様子が引き続きよくない」と断られたので仕方ない。
私の存在がフラーシュ王国の混乱の原因だから、行かない方がいいのは私にもわかる。
会食会で会った時、王族の中でもニグム様を庇うようなものはいなかった。
多分、ニグム様を王に据えても、自分たちの生活は変わらないと思っていたのにそうじゃなさそう、ということが発覚して、慌てて体裁を整え始めたのだろう。
一部貴族が手の平返しをするのは簡単だろうけれど、王族の親族はそうもいかないので大混乱なんだろうなぁ。
今からニグム様に取り入ろう、という親族や貴族が押し寄せて、私をそういう者たちに極力関わらせたくないんだろうと思う。
まだ私はそういう者たちを処理できるほど、あの国のことを知っているわけでもなければ王子妃の教育を受けているわけでもない。
冬季休みでしっかりとそのあたりも勉強して、必要な所作も身につけなければいけない。
フラーシュ王国の王子妃や王妃にとって必要な教養は、ニグム様が置いていってくれたニグム様の執事アリヌスに学ぶことになっている。
朝十時から昼の三時までフラーシュ王国についてのお勉強。
王妃として必要な知識や所作を最低限教わる。
そのあとは
ランク4の水の幻魔石に付与を試している最中だ。
他にも土の幻魔石に抗アレルギー効果を付与できないものかと、引き続き研究を続けている。
ヨモギとオリーブを磨り潰して同時に巻き込んで、土に埋めていく。
ランク4の土の幻魔石は付与が入りにくいみたい。
その分、効果は長続きするのだそう。
ランク1は数十分から一時間。
ランク2は数時間。
ランク3は数日。
ランク4は数カ月。
ランク5は数年。
ランク6は半永久的。
効果が確立したらどんな手を使っても必ずランク6の幻魔石を手に入れて、半永久的な抗アレルギー
完全に花粉症に打ち勝つのよ、今世で、こそ!
「姫様、そろそろお夕飯のお時間です」
「ああ、はい。わかりました」
「それと……年末の雪花祝祭はいかがいたしますか?」
「あ、あーーー……」
迎えに来てくれたコキアの言葉に天を仰ぐ。
雪花祝祭――年末に行われる雪花……雪の結晶をばら撒くサービール王国のお祭り。
雪の結晶を具現化させるのは王族の仕事。
王都中に雪の結晶を降らせて、その結晶を手に入れて十秒以上手の平に持っていられたら来年の仕事運や恋愛運や金運がアップする……という。
高等部にあがると、学園のダンスホールでダンスパーティーが行われる。
しかも、そのまま新年祝祭に移るのだ。
新年は十日間ほどお祭り騒ぎが続く。
そして一月一日から私は高等部二年生だ。
それを祝う意味でも雪花祝祭には招待されている。
「そうね、どうしましょう。休んじゃ……」
「新年祝祭はともかく、雪花祝祭は出席いたしませんと。冬季休み前の学期末試験の首席は挨拶があるのですよ」
「そんなのありましたっけ!?」
「ありましたよ。招待状にも書いてあります。また、入学式の在学生挨拶。来年度の生徒会役員への強制加入。ちなみに留学生であっても首席は生徒会長になります」
「待って待って待って!? 無理!」
「ご存じで首席になられたのかと思いました」
「ご存じではありませんよ!?」
「なんでご存じでないのですか?」
頭を抱えた。
そ、そんなの知らないーーー!!
サービール王国王立学園の生徒会!?
そんなの絶対大変じゃないのォォォォ!?
「無理よ! だって二ヵ月くらい休学するもの、私!」
「ですが姫様、二ヵ月休学されても夏季休暇前の試験も期末試験も首席ですしね……休学するから、は弱いですね」
「ッッッ……!!」
でも私、王太子妃の勉強もしなきゃいけないのに、と震えながら呟くがコキアには「辞退するにしても、雪花祝祭には出席して生徒会役員に直接お断りしないといけませんよ」と言われてしまう。
気が重い。
手紙でのお断りはダメかしら、と言うと困った表情をされてしまった。
「……わかったわ。出席します。生徒会についてはお断りします」
「かしこまりました。ですが、よろしいのですか? フラーシュ王国の次期王妃としてサービール王国の王立学園のサイト会長を一年でも努めれば、確実に拍がつくかと思いますよ」
「うぐ……」
「
「ううう!!」
小国の
お父様とお母様、弟たち、継母たち、妹たちの嬉しそうな表情。
「それに、スティール様が来年からサービール王国の王立学園に留学してくるのですよ」
「……………………。やりましょう」
姉として、超カッコいい私を見せたい。
やってやるわ。
見てやがれよ。
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