第35話 二度目のフラーシュ王国


「帰国してシメる」 

「ほどほどになさってくださいませ?」

 

 夏季休暇に入り、お迎えに来てくれたニグム様が満面の笑みで開口一番宣言した。

 わあ、本当にいい笑顔~。

 こんなに爽やかなニグム様の笑顔、初めて見た~。

 フリーマーケット事件からはクレイン様、他生徒会役員の迅速な働きにより沈静化。

 私を襲おうとしたロダウ・ナージョはフラーシュ王国の名貴族の一角。

 王族の親族が入籍して権威を強めた家だという。

 支持する王子はニグム様――という話だったけれど、嫡子ロダウに私と既成事実を作らせ、婚約破棄からの私をナージョ家に嫁入りさせる……みたいな計画だったらしい。

 なるほどなぁ、と計画の全容を聞いた時は納得してしまった。

 みんなには「なにをのんきな」と怒られたけれど。

 まあ、そういう話だったらしいから、ニグム様は当然ガチギレ。

 夏季休暇に入る数日は私の身も周りの警備がガチガチにされた。

 ニグム様の家の兵以外にも、スティールからやユーフィアがサービール王国の騎士まで連れて来たのよね。

 目立ちたくないからコキアとハゼランだけでいいと思っていたんだけれど、フリーマーケットの日は要人が多くて二人には別なところに置いてしまったけれど、それは仕方ないというか。

 とにかく夏季休暇に入る前は物々しかったなあ。

 やっと夏季休暇に入って、ニグム様とフラーシュ王国に向かったけれど、今回はムジュタヒド様とスティールが同行する。

 馬車は途中まで。

 砂漠に入るとフラーシュオオトカゲ馬車に乗り換える。

 四人乗りのボックス車は和気藹々。

 フラーシュ様をもふもふしていると、ムジュタヒド様は「フラーシュ様はもふもふなんですね」と目を輝かせ、「姉様がもふもふに触れられるなんて……本当によかったですね!」と言ってくれる。

 そうなの! フラーシュ様はもふもふで、動物の毛のアレルギーな私にとってフラーシュ様は神!

 まあ、実際守護獣という神なのだけれど。

 数日待ちを転々として、ついにフラーシュ王国に入る。

 

「今回はナージョ家を潰すが」

「シレっと名家のお取り潰しを宣言!?」

「ムジュタヒドはムーダとロソーク家の動向を見ていてほしい。頼んでいいか?」

「はい、お任せください。フラーシュ様に認められたフィエラシーラ姫様とニグム兄様は私と母、母の実家モルアド家がお守りいたします!」

『……うん、嘘偽りはないみたやで』

「そうか」

 

 フラーシュ様は国内であればニグム様と私を加護で守ってくださる。

 人の心の中もわかってしまうのか。

 政のこういうところが苦手なんだけれど、人の心を読めるフラーシュ様と言葉を交わせる者は脅威だろうなぁ。

 そんな話をしていると、ついに二度目のフラーシュ王国王都に到着。

 間もなく王宮に入った。

 

「お帰りなさいませ。ニグム様、ムジュタヒド様、フィエラシーラ姫殿下、スティール王子殿下」

「国に戻ったらすぐに国王陛下に挨拶をとのことでございます」

「フィエラを先に休ませたい。スティール王子とフィエラは先に部屋に行って休んでくれ。注意点は前回と同じで頼む」

「わ、わかりました。でも、あの、よろしいのですか?」

「もちろん。前回の訪問でフィエラのことは国中の貴族に認識されたはず。馬鹿な真似をする者はいないだろうが、ロダウのような愚か者がいないとも限らない。君は少しおおらかすぎるから、ゆっっっっっくり休んでくれ」

「あ、はーい」

 

 いかん、ニグム様に思い切り牽制された。

 仕方ない、おとなしくお部屋で休みましょう。

 スティールにも笑顔で肘で突かれた。

 はい、ニグム様の言う通りします。

 

「いったい前回の訪問の時になにをされたのですか?」

 

 今回はすんなりと……と、言ってはなんだけれど、前回とは比べ物にならない豪華な客間に案内された。

 部屋というか、もはや王宮内の別邸なんだけれど?

 スティールの滞在用の部屋も隣の別邸。

 前回とはまったく待遇が違うなぁ。

 そんな破格の対応と、先ほどのニグム様の態度にスティールが怒った顔をしてそんなことを言う。

 いや~、変なことはしていないんですけれどね~?

 

「いや、守護獣と言葉を交わせる者相手なら、大国の対応としてこのくらいやるのでしょうか? 完全に国賓扱い、ですよね」

「そうですねぇ。こんなに立派な離れをお借りできるとは思いませんでしたねぇ」

「そんな他人事みたいに……」

 

 もしかして、前回毒を盛られたお詫び的な意味なのかしら?

 そういえば罰痕も与えられた人がいましたしね?

 怯えも意味があるのかな?

 まあ、そういうことなら仕方ない。

 

「フィエラシーラ姫様、またのご訪問ありがとうございます。お待ちしておりました」

「あ! ラフィーフ!」

 

 リビングの入り口に、去年ずっと側で世話を焼いてくれたラフィーフが跪いて頭を下げていた。

 カウチソファーから立ち上がり、駆け寄るとラフィーフも嬉しそうに「またお会いできて嬉しいです」と言ってくれる。

 こちらこそ~~~!

 

「そちらのご令嬢は?」

「去年私の話し相手や世話役をしてくれたラフィーフです。ラフィーフ、彼は私の弟でスティールです。スティールにもフラーシュ王国のことを色々教えてあげてください」

「初めまして、ラフィーフと申します。滞在中はなんなりとお申しつけください」

「よろしく頼む」

 

 こんなほのぼのとして空気が、まさか夕飯の時に一変するなんて――この時は知る由もない。

 


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