第11話 長期休み
――
花の季節。
前世でいうところの四月である。
「ずずずずずず……ずび、ず、ず……ぶちーーーーーん!」
「今年もひどいですわね、フィエラ」
「ええ……でも、今年は自作の
「それで……? 例年通りに見えますけれど……」
鼻水をティッシュに出す。
一応ここは自宅の寝室。
ユーフィアは私のお見舞いに来てくれたのだ。
ハーヴィエル月――前世の六月くらいまではずっとこのまま、引きこもるつもり。
二ヵ月の引きこもりは休学届を出して合法的に行っている。
こう見えても成績はいいのと、この国に来た理由も申請しているので休学届はすんなりと通るのだ。
涙と鼻水は止まらないし、微熱は続くし、目と全身は痒いし、もう最悪。
それでも、二ヵ月耐えればまた出歩けるようになる。
ただ、この時期は本当に……本当にダメ。
断れないけれどユーフィアにも来てほしくない。
なぜなら外からユーフィアが花粉を持ってくるから――!!
でも、心配してきてくれているのはわかるから、もちろん会うんだけれど。
「そういえばニグム様はお見舞いに来られましたの?」
「いえ、ニグム様はお手紙だけ。花粉を持ち込んでしまうからと」
「花粉を持ち込むって?」
「えーと」
ユーフィアにも何度かこれまでもお見舞いは結構ですわ、と伝えているのだけれど、やっぱり花粉症じゃない人に理解してもらうのは大変みたいだ。
なので、毎年説明している内容をもう一度丁寧に「花粉は目に見えない。服や髪にくっついて移動する。花粉症の人は花粉に反応してしまうので、外から花粉をつけてきた人に会うとついている花粉に反応して症状が出てしまうんです」と説明すると、なんとユーフィアがハッと驚いた表情をする。
「ヤダ! それってわたくしがフィエラの花粉症を悪化させていたってこと!?」
「あはは……まあ、そう、ですわね」
「帰りますわ。それでニグム様はお手紙だけで済ませておりましたのね。ごめんなさい。今後のお見舞いはお手紙や食べ物にいたしますわね」
「あ、ありがとうございます。でがあの、また二ヶ月後に学校で」
「はあ、二ヵ月も会えないんですわね。ものすごく寂しいですが、フィエラを苦しめたくないので仕方ないですわ……。ええ、ええ、絶対にたくさん手紙を書きますわね」
「はい……ありがとうございます」
ものすごく渋々。
でも、寂しそう。
私もユーフィアに会えなくて寂しいけれど……春は特に花粉がすさまじいから仕方ない。
主に、杉とヒノキが。
「本当にこの時期はひどうございますね」
「お掃除いたしますね」
「ええ。でも、やっぱり今年は
「はたから見るとそうでもございませんが……」
そうなのか。
まあ、幼少期から私の花粉症症状を見てきたコキアとハゼランから見ると、そうなのかもしれない。
ずっとベッドに引きこもっているわけにはいかないから、自室で土の幻魔石にアレルギー抗体が暴れないよう試行錯誤してみる。
フラーシュ様が『何度も同じ内容を染み込ませるとええで』と言っていたので、細かい内容をびっしり書いて、何度も張りつけて埋めた。
鉢は窓辺に置いて、日光を浴びさせる。
これもフラーシュ様にアドバイスしていただいた。
「はあ……今回も失敗か」
土の幻魔石観察日記に一号から十号まで全部失敗。
全部同じ内容を五日間。
そろそろ別な内容にしてみるべきか、他の内容を入れるようにしてみるか。
新しい鉢を用意してもらい、次に夏の稲花粉用と秋のブタクサ花粉用とヨモギ花粉用のものも作れないものか試してみよう。
うん、七番から十番はアレルギー物質への抗体反応を抑える方向のものもに進路変更しようか。
メモメモ……と。
「鉢の数が増えてまいりましたし、裏庭に温室を作ってそちらで鉢の観察をなさいますか?」
「うーん、そうね。今から建設してどのくらいかかるかしら?」
「王都の大工に相談してまいりますね」
「ええ、おねがい。ずずずずず……」
この世界に転生しても結局花粉症になってしまったけれど、この世界には幻魔石があるし地位はお姫様のおかげで色々融通は聞くし、悪いことばかりではないわよね。
ああ、でも……怠い。
目を開けていられない。痒い。目ん玉取り出して洗いたい。
この世界にもボックスティッシュがあってよかった。
……今まであんまり疑問に思ったことなかったけれど、ボックスティッシュが普通にあるのって不思議。
東部の島国発祥って聞いたけど、日本みたいな場所があるのかしらね?
◇◆◇◆◇
そんな二ヵ月を過ぎてハーヴィエル月。
だいぶ花粉も流れてこなくなり、外に出てもくしゃみや涙や微熱も治まり学校に行けそうになってきた。
やはり
夏場の稲花粉はそれほど強く現れる方ではないから、自作の
とはいえ、やっぱり抗アレルギー
ランク2の土の幻魔石では難しいのかもしれない、とフラーシュ様に言われてしまったので、ランク3~4の土の幻魔石を発注しているし、水の幻魔石でも試してみたい。
ああ、色々試すことがあるので毎日がめちゃくちゃ楽しくて充実してる。
『よお!フィエラシーラ姫!』
「明日から登校再開と聞いた」
「え、ニグム様、フラーシュ様!?」
学園の寮に帰ろうと思ったら、庭にニグム様たちが待っていた。
待って待って待って、コキアもハゼランもニグム様たちが来てるって言ってなかったじゃない!?
言わなきゃダメじゃない!?
王太子が来てたら、おや、お客様が来ていたら、私に報告義務があると思うんですが!?
「な、なんで!?」
「迎えに来たんだ。まあ、寮までだが」
「そんな……ニグム様は普通に登校日でしょうに」
「二ヵ月会うこともままならなかったのだから、いいだろう、別に。なんだかまた距離ができていそうで……忘れられていなかっただろうかと、心配で……」
胸が、きゅーんとした。
年下の男の子のツンデレ感というか。
いや、精神年齢的な話。
肉体年齢は同い年だし、私のやることを否定せず応援してくれるし、二ヵ月間ほぼ毎日学校の授業の話を手紙に書いてくれたマメさと健気さ、私のことを本当に考えてくれているって……会わなくてもちゃんと伝え続けてくれていたのに投稿可能になった途端直接会いに来てくれるなんて――そんなの……!
「あ、ありがとうございます……あの、あんなに、ほぼ毎日お手紙をくださっていたのですから、忘れることなんてありませんよ。その……お手紙を読む度にニグム様のことを思い出しておりましたもの……」
「え、え、あ……そ、そう、か……」
顔を合わせられない。
な、なにこの甘酸っぱい不思議空間……!?
「では、あの、行こうか」
「は、はい……」
馬車の中は無言だったけれど、お互いずっと顔を合わせられないくらいずっと照れ照れしていた。
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