第10話 効果付与実験
お茶会が終わったあと、フラーシュ様に研究の話をする。
普段から週末は女子寮からこの自宅に戻り、研究を行っていたのだがフラーシュ様の反応によっては来週休んじゃおうかな、なんて思っていた。
『なるほどなぁ、言いたいことはだいたいわかったで』
最初は面倒くさがっていたフラーシュ様だが、私が熱心にプレゼン……ではなく研究成果の発表をおこなったところ、私の肩から下りてきた。
そして効果付与の実験に使う幻魔石の上に座って『紙を用意』と指示される。
白紙と万年筆を机に用意した。
『幻魔石ってのは自然により生まれてくる石。守護獣ってのは、この幻魔石が国という生命を得て誕生するやで』
「そ、そうなのですか?」
『せやで。国が死ぬ時、守護獣も死ぬんやで。そうやって守護獣も世界と一緒に循環していくんや。で、幻魔石はなりそこないの守護獣の卵みたいなもんや。つまり、フィエラシーラ姫の着眼点はめっちゃ悪くないねん』
「本当ですか!?」
顔を上げると、白紙の上にランク2の幻魔石を乗せろ、とのこと。
これをどうするんだろう?
『そもそも効果付与ってどうやるか知ってるん?』
「えっと、効果付与は高等部で習うからとまだ詳しくは……」
『ほな、予習ってことで試してみよか。紙に付与したい効果を書き出していくんやで』
「はい」
私が付与したいのは、アレルギーを抑える効果。
抗体が暴走するのを抑える効果。
アレルゲンは人によるから、過剰に反応するのを抑える効果にすべきかな?
「書きました」
『ン。ほな、それで幻魔石を包んで』
「こうですか?」
『ぴーったりしーっかりくっるけるんやで。それで付与のできが決まるんや』
幻魔石は基本的にその辺にある石だ。
川や海から採集された幻魔石以外はゴツゴツしていて紙で包むのはちょっと大変。
水属性の幻魔石はつるつるなものが多いので、効果付与がやりやすいと言われている。
でも、今私の研究所にある幻魔石は土属性の幻魔石。
おにぎりを握るみたいにギュギュッと紙を幻魔石に貼りつけていくのだが、だんだん「でもこの土属性の幻魔石に効果付与できるのかしら?」と心配になってきた。
『うん。そろそろええやろ』
「あの、このあとどうするんですか?」
『土に埋める』
「土に埋める!?」
『土属性の幻魔石は土に埋めて付与するんやで。水の幻魔石は水に沈めるし、火の幻魔石は火にくべる。風の幻魔石は風通しのいいところに置くんやで。それで幻魔石に紙に書いた付与内容が付与されるんや。それぞれに適した紙があるんやけど、土の幻魔石は普通の紙で大丈夫なんや』
「付与のための専用の紙があるんですね」
『せやで。あと、付与しやすいインクもある。紙に書く付与内容は、詳しく書かなきゃならん。そのへんは結構な学が必要やから、高等部で習うんやな』
「そういうことだったのですね」
高価なもの数十万する。
確かに、子どもには取り扱えない。
私が使ったのは一般的な紙と万年筆。
土の幻魔石は四属性の中で一番付与しやすいとのことで、フラーシュ様は今回それを選んだらしい。
「では、すぐに結果がわかるわけではないのですね」
『いや、今回はわいが手伝うで。でも、上手く付与されるかどうかはわからんで。フィエラシーラ姫の付与したい効果と幻魔石の属性相性がいいともわからんしな』
そう言って、紙で包んだ幻魔石にぽこぽこ尻尾で叩くとほんのりと熱く、淡く光る。
その光と熱が収まってからフラーシュ様が『紙取ってみ』というので、剥がしてみた。
『失敗やな』
「失敗ですか」
付与は失敗しているらしい。
確かに、幻魔石になんの変化も見られないわ。
『土属性の幻魔石は結界や病気や怪我の予防の付与。病気や怪我の治癒は水の幻魔石。火を起こしたり、熱を発したり、灯りを点けたりするのは火の幻魔石。風を起こしたり、焚き火用の枝や洗濯ものを乾燥させたりするのは風の幻魔石。フィエラシーラ姫の話の内容的には土の幻魔石であっていると思うんやで』
「そう、ですね……確かに……でも水の幻魔石でも試してみるのもありかもしれません」
『せやね。でも、効果が付与できなかったんわ、つまり付与内容が曖昧だった。幻魔石のランクが足りなかった。紙の張りつけが下手くそだった。って、感じやろな』
「色々理由があるんですね」
『もっと簡単な付与内容で試してみたらええんと違う? 花粉症? の症状を一つ選んで、それが出んように、って感じで』
「なるほど。くしゃみを抑える、って書いてみます」
『ああ、それはよくある内容やな』
と、嬉しそうに手を叩く。
一度失敗した幻魔石でもいいのでしょうか、と聞くと『むしろ失敗を重ねた幻魔石は、付与内容が入りやすくなるんやで』とのこと。
つまり、何度も同じ内容を付与し続けてじんわり染み込み続けて付与成功するんだって。
結構忍耐強くやらなければいけないんだろう。
「くしゃみを抑える――と」
『ほな、さっきと同じようにしてみ』
「はい。まずは幻魔石に付与内容の書かれた紙を巻きつけるんですよね」
ぎゅ、ぎゅ、とおにぎりを握るみたいに幻魔石に紙を張りつける。
三十分くらい続けていたら、フラーシュ様が『そろそろええで』と言ってくれた。
フラーシュ様に差し出して、フラーシュ様が尻尾でぺちぺち、としてくれる。
すると先ほどのように幻魔石が温かくなり、ほんのりと光が灯った。
それが収まると、紙が光になって幻魔石に吸収される。
なにこれ、と驚いていると幻魔石の形が変化した。
エメラルドのアンティーククッションカットの宝石みたい。
「これは――」
『
専門店で販売もされているけれど、まさか自分で作れるなんてちょっと感動だわ。
「こうやって作るのですね……」
『普通はさっき言った通りの作り方やで。普通のやり方も試してみるとええ』
「そうですね、試してみます!」
これが
検証を重ねればできるかもしれない。
――抗アレルギー
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