第9話 お茶会(2)
「ッ……」
「「!?」」
あたたかくてふわふわもふもふ……。
前世から憧れていた、小動物。
これがふわふわもふもふなのね。
感動で涙が溢れてしまった。
そんな私の様子に、コキアが「姫様」と心配そうに肩に触れてくる。
「ち、違うの、嬉しいの。私、小動物を触ったの初めてで……嬉しい……可愛い……」
「そ、そうなんですか」
「本当に触れているんですのね。え? ほ、本当にここに守護獣が……まあ、うっすら宙を撫でているように見えるので、なにかはいるのでしょうけれど。…………。では、ニグム様のご意向は守護獣のご意向なのですわね?」
「そうだ」
「だとしたら、現王陛下は守護獣のご意向を無視することになりますわよね?」
ああ、もふもふ、これがもふもふの生き物の感触なのね。
さらさらの毛並み、ぬくもり、もっちもっちたっぷたっぷのお腹。
くねくねと動く体。
ニコ――っとしたような表情のお口。
可愛い。可愛い。可愛いぃぃぃぃ~~~~~!!
「可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い」
「フィ、フィエラ?」
「ああ、姫様の箍が外れてしまった……」
「幼少期より猫や犬など大好きでらっしゃったのに、もふもふアレルギーでぬいぐるみを抱き締めて我慢するしかできない姫様がもふもふに触れられたのですか!?」
「まあ、フラーシュは猫科の生き物に見えなくもない。俺は砂狐のように見えるが」
ああ、可愛いが止まらない。
でも、そんな私のもふもふ欲求が強すぎたのか『そろそろいいか?』と、フラーシュ様に柔らかな肉球で顔を押しのけられてしまう。
うう、この押しのける時に顔にあたる肉球のふにっと感ですら幸せ……!!
「……そんなに気に入ったのなら、フラーシュはフィエラシーラ姫が預かっていてもいいぞ」
『おぉい!? シレっとわいの面倒を押しつけるんやないで!?』
「お前が一緒にいた方がフィエラシーラ姫の研究も進むかもしれないだろう? 腐っても高位の守護獣なんだから」
「研究のお力になってくださるのですか!?」
『うぎぎぎ……わ、わかったよぉー!』
うおっしゃああああああああ!!
もっふもっふのフラーシュ様をお借りできることになりましたー!!
抱き締めて「よろしくお願いいたしますー!!」と叫ぶと『えげー』と叫ばれてしまう。
その様子にユーフィアは先ほどまでの冷たいつっけんどんな態度がすっかり鳴りを潜め、ニグム様と私そっちのけで話し始めた。
さすがに一国の王族。
守護獣が見える者、触れられる者は他国の者であっても尊重する。
守護獣が見える、触れられる者は自国以外の守護獣にも見たり触れたりできる場合が多いのだ。
ユーフィアは守護獣の姿が見えるニグム様を、もう邪険に扱えない。
それはもう国として、だ。
だって守護獣が見える者、触れられる者は国を守り繁栄させる才能を持つ者――だから。
もしかしたらサービール王国の守護獣様も、私とニグム様は見えるかもしれないってこと。
「はあ、もういいですわ。ニグム様がフィエラのことをそれなりに本気なのはわかりましたし、わたくしが懸念していたフラーシュ王国の害悪文化についても、それらからフィエラを守ってくださるおつもりがあるみたいですし、わたくしこれ以上反対いたしませんわ」
「あ、ああ。ありがとう」
「フィエラが頑張ている研究を応援してくださるのだけは、本当に約束してくださいませよ」
「もちろんだ。アレルギーの研究はこの世界の益になるものだろう。世界中の人間が無関係ではない」
ニグム様が答えるとユーフィアも強く頷く。
私の研究に二人がそんなに期待を寄せてくれているのは嬉しいのだけれど、前世でもアレルギー薬はあまり効かなかった私、正直自信がない。
前世はほぼ一年中花粉症の薬を飲んでいた。
病院に通ったりしても「ちょっと珍しいレベルで重症ですね」って言われるくらいの花粉症人生。
もはや日本で生きるの向いてない日本人だった。
でも、この世界には前世にはない幻魔石もあるし、前世にない治療方法があるかもしれない。
「フラーシュ様は大国の守護獣様ですもの、知識豊富そうで期待しております。あの、あの、今考えているのは幻魔石に効果付与ができないものかと考えているのですが……」
『わい、そもそもアレルギーについてよくわからない』
「では今から詳しくご説明いたします! せっかく研究所のある我が家にいますので!」
『ェ』
フラーシュ様を抱っこして、ユーフィアとニグム様に一言断ってから自宅の中に入る。
あ、でもお招きしている立場で勝手にいなくなるのはよくないわ。
くるりと振り返って「ユーフィアとニグム様も私の研究室に来ますか?」と聞くと、二人はガタリ、と立ち上がる。
「ええ、もちろん! 見せていただいてもよろしいの?」
「こちらこそ、ぜひ手伝わせてほしい」
「ではご案内します! 私の研究室は二階にあるんですけれど……」
と、お二人とお二人の侍女や従者を連れて屋敷の中に招く。
コキアが「本当によろしいのですか?」と確認してくる。
貴重な研究の資料などを、外部の人間に見せるなんて――という意味。
「お二人にも知っていただきたいし、私の研究を盗んで発表する者がいても構わないわ。世間がどのように反応するのか見られるし」
と、にっこり笑って答えるとコキアもなにも言わなくなる。
私だって伊達に一国の王女ではないのよ。
そのくらい考えているわ。
それに、アレルギーの研究はまだ明確な治療法が確立しているわけではないもの。
まずは春、自分が少しでも快適に過ごせるように、前世のような抗アレルギー薬をゲットするのよ!
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